いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「三角の距離は限りないゼロ9 After Story」岬鷺宮(電撃文庫)

奇妙な三角関係が終わりを告げてしばらく。
僕と彼女を待っていたのは、当たり前の、だけど何より願っていた日常だった。
恋人どうしの何気ないやり取り、級友と過ごす高校最後の夏、それぞれの進路、そして卒業――。
二年前、僕らの物語はあの教室で始まって、きっとまだその途中にいる。
切なく愛しい恋物語。二人の“今”を鮮やかに綴るアフターストーリー。


暦美が北海道から帰ってくる四月上旬から高校卒業までを描いたアフターストーリー。
ドラマチックで浮き沈みの激しい、どちらかと言えば辛いことの方が多かった三角関係を過ごしてきた矢野と水瀬と、それを見守ってきた仲間たち。その彼らが進路や将来に悩み、受験に一喜一憂し、高校時代のかけがえのないひと時を満喫する。そんなありふれた高校生の日常を、青春模様を繰り広げているのが嬉しい。それと同時にホッとした。
一方で、寂しく感じたこともある。それは暦美がごくごく普通の女の子だったこと。
世界を広げるために得意なことで挑戦して、でも自分に自信がなくて。彼氏と一緒に居るだけで嬉しくて、でもちょっとしたすれ違いで喧嘩もする。どこまでも等身大の女の子像。それ自体には悪いことは一つもないのだけど、でもそこには秋玻の面影も春珂の面影も感じられない。それが本当にもう二人は居ないんだと実感してしまって、ひどく寂しい気分になった。あの二人は良くも悪くも個性が強かったからなあ。
そんな嬉しくなる“普通”と、寂しくなる“普通”が混在する、“普通”なアフターストーリーだった。