いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「蜘蛛と制服」入江君人(富士見ファンタジア文庫)

異世界に転移した女子高生・琥珀は、3匹の人食い蜘蛛を助け、彼らとともに迷宮を旅することになった。
「私は”化け物(バーシャ)”、あなたの敵よ」
出会った冒険者を倒したり、蜘蛛の糸で綺麗な服を作ったり、一緒に食料を探したり。虫が好きなことを隠さなきゃいけない前世よりよっぽどあたたかい、蜘蛛3匹と過ごす毎日。
「わたくしは、魔道士協会に籍を置く大天才魔女――」
しかし、一番小さいヒメちゃんが、しゃべり始めただけでなく自分のことを魔王の娘と名乗って――!?
入江君人×茨乃の神ないタッグが生と死を描く、珠玉のファンタジーのはじまり。

入江君人、七年ぶりの新刊。


復帰作でとんでもないもの出してきた。
他人との感性の違いを自覚し、優等生の仮面を被って息苦しく生きてきた女子高生・琥珀。そんな彼女が事故をきっかけに異世界で本当の自分をさらけ出して、愛し愛されることが出来る家族と出会う物語。
と書くと、流行りの異世界転移をやりつつ、一人の女の子が救われるハートフルな話を想像するが、その実態は虫を愛し自分の死体は虫の糧にしてほしいと願う女子高生が、三匹の蜘蛛に自分の身体を食べさせながら地下迷宮を旅する異世界転移もの、という狂気の作品。
デビュー作から死者の国で腐っている人たちの話だったけど、ここまで行くとちょっと。個人的な理由で申し訳ないがこれはきつい。ゾンビも虫も大丈夫なんだけど、血と内臓をダイレクトに想像させるものは本気で駄目なんです、ごめんなさい。
日本の女子高生が壊れていて、蜘蛛に転生してしまった魔族の姫の方が人格・性格がまともで、蜘蛛が女子高生に人生観や道徳を説くというシュールな状況。女子高生な琥珀はもちろん、蜘蛛もデフォルメされて可愛らしい挿絵と、生きたまま食べられているグロテスクな描写のミスマッチさ。ふり幅の激しいギャップで読者を揺さぶっておいて、目標を作って生への道へ進ませ、確かな家族愛が感じられる感動のラストに着地させる。その手法は上手いなとは思ったが、それよりも気持ち悪いのを我慢してなんとか最後まで読み切った、しんどかった。という感想の方が先に来てしまう。
何はともあれ、『神様のいない日曜日』『王女コクランと願いの悪魔』の入江先生が復活してくれたことは素直に嬉しい。お帰りなさい!