いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「私の心はおじさんである」嶋野夕陽 (PASH!ブックス)

友人、恋人、家族もいない孤独なサラリーマン山岸遥(43)。感情を表に出すことが苦手で、人と付き合うことを避ける内に、枯れたおじさんになっていた。しかし、ある日目を覚ますとそこは異世界。さらに、美しいダークエルフの女性になっていた!?
内気な性格のハルカは、鋼の肉体、圧倒的な魔法力を持ちながらもウジウジウジウジ。
そんな彼女(彼)だったが、二回り以上歳の離れた同期冒険者たちとパーティを組み、徐々に異世界に順応し始める──
人間関係を諦めたおじさんが、新しい自分として異世界で心を成長させていく、歪だけど王道な冒険の物語が幕を開ける!


四十路で独身の冴えないおじさんが、ダークエルフとして異世界に転生する物語。

web版既読
まず何が良いって、タイトルが良い。
あらすじ調の無駄に長い無個性タイトルに辟易している身としては、このシンプルなタイトルに惹かれる。
そして、タイトル通りに「心」の部分を大切にする、落ち着いた物語なのが良い。
主人公のハルカが転生した身体は強靭で魔法も無尽蔵。なのに中身が日本人らしい善良な小市民のままで無双とは無縁で、何かしら能力を持って異世界に渡るとすぐにはっちゃけて戦闘力テロ文化テロを起こす異世界転生主人公達とは真逆の存在。
親からの愛情が薄かった少年時代。正義の心を持ちながら周りに流されることを良しとしてしまった青年時代。擦り切れてしまった社会人時代。そんな無気力になってしまったおじさんが、二周り下の仲間たちと冒険することで、年下の仲間を見守り慕われることで愛情を、無鉄砲な彼らに引っ張られるように我を出すことを、そして純粋に“冒険”することで子供心を取り戻す。灰色だった青春時代をやり直す「おじさんの心」の救済と成長の物語になっている。
タイトルを含めて、流行りの異世界転生/転移のファンタジーに、同じ土俵でアンチテーゼを投げかけるような作品。
と、なんかそれっぽいことを書いたが、
もっと単純に気のいい奴らが旅しているのが楽しそうなのと、ハルカの変わらない善良な小市民のメンタリティが苦笑しつつも心地いいのが気に入っている。