いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「湯治場のぶたぶた」矢崎存美(光文社文庫)

ふっと、休みたくなる時がある。身体をいたわって、滋味あふれる美味しい食事をとり、心を洗濯する――そんな思いを叶えてくれる小さな湯治場がここにあります。少し元気がない時は、鞄ひとつを持ってふらりと訪れてください。ビワがなる山里と豊かでいいお湯、そしてちょっとだけ不思議で、可愛い(!?)オーナー山崎ぶたぶたが、あなたをお待ちしています。


去年5月以来の久しぶりのぶたぶたシリーズ。作者の体調のこともあるので出てくれるだけで嬉しい。

今回のぶたぶたさんの職場は湯治場。
温泉宿ではなく療養施設の側面を持つ湯治場ってのがぶたぶたさんらしい。
オーナーとしてカウンセリングと料理を受け持つぶたぶたさん。渋く落ち着いたおじさんボイス、相手を威圧しない(出来ない)ピンクのふっくらボディーと円らな瞳、何を作っても一流だけど高級料理より家庭料理を得意とする料理スキル。どこを取っても天職だ。まあ、どの職業でも毎回合ってる合ってると言っているような気がするがw
そんなぶたぶたさんが経営する湯治場は、いつも以上に優しい不思議ワールドだった。
鬱だったり依存症だったり、心の病気で湯治に来る人たちの話なのだけど、ぶたぶたさんが積極的に湯治客に関わっていく事はないのに、言いにくい言葉が何故かスルッと出て来る湯治客たち。心に余裕のない人たちに考える余裕を持たせてくれる不思議な空間だった。ぶたぶたさん本人の安心感もあるけれど、彼に魅了された従業員や常連客が一緒になって湯治場の温かい空気を作っているように感じた。押し付けがましくないさりげない優しさが心地いい。
あと、いつも以上に家庭的な料理ばかりで味と姿の想像が容易だったからなのか、飯テロ力が高い。
具がゴロゴロ入ったお家カレーに玉子が入った味噌汁ってなんだよ。最強かよ。それだけでノスタルジーな気分に浸れるわ。そしてお腹が空く。
久しぶりでも変わらないぶたぶたさん。優しい気持ちになれる物語だった。