いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「アンと愛情」坂本司(光文社文庫)

成人式を迎えても、大人になった実感のわかないアンちゃん。同い年の優秀な「みつ屋」の社員と自分を比べて落ち込んだり、金沢で素晴らしいお菓子に出合って目を輝かせたり。まだまだアンちゃんの学びの日々は続きます。
これからもそんな日常が――と思いきや、えっ、大好きな椿店長が!?
和菓子に込められた様々な想いや謎に迫る、美味しいお仕事ミステリー第三弾。


和菓子屋のアルバイト・梅本杏子が、お客様の言動からその意味を紐解いたり、自分の将来に不安になったり、同僚が抱えた問題に直面したりする、和菓子×ミステリー『和菓子のアン』のシリーズ三作目。

和菓子にまつわる日本の歴史や民俗学の薀蓄を読みつつ、四季を感じる和菓子と和菓子屋さんの持つ和の空気を楽しむ。今回も安定の面白さだった。今回は杏子の成人式の振袖に金沢旅行と、和のテイストが濃くなっていて薀蓄も雰囲気もこれまで以上に楽しめたのが嬉しい。
ただ、拍子抜けした面も。
前巻の後半が杏子と乙女男子立花との恋愛模様に寄っていたので、そっち方面の伸展があるのか、はたまた他のハプニングがあるのかと楽しみにしていたら、大きな進展もイベントない静かな話だったので、若干の物足りなさが。
杏子的には椿店長の異動は大きな問題だったとは思うけど。
「知らない」をそのままにしない知的好奇心の強さや粘り強さがある一方で、自己肯定感が低く引っ込み思案な杏子の、長所と短所を正しく評価して重用してくれていた椿店長。彼女が居なくなるのは大きな出来事なのは間違いないのだけど、影響が出るのは次以降の話。余波で暴発した乙女男子がいたけど、杏子が無自覚だからこちらも影響は軽微なんだよなあ。
単行本の次巻が10月に出るそうで。杏子のことだから新店長就任でまた辞める辞めないの話になりそうな予感。次こそ乙女男子に頑張ってもらわないと。