いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「おいしい旅 しあわせ編」大崎梢、近藤史恵、篠田真由美、柴田よしき、新津きよみ、松村比呂美、三上延(角川文庫)

祖母と一緒に行くはずだったお伊勢参り。急なトラブルでひとりでお参りすることになった元喜は、ある男の子と出会う(「もしも神様に会えたなら」)。
幼い頃に引っ越し、生まれ故郷の記憶はまるでない。両親の思い出話を頼りに故郷をめぐる旅に出るが……(「失われた甘い時を求めて」)。
心ときめく景色や極上グルメとの出会い。旅ならではの様々な「幸せ」がたっぷり詰まった7編を収録。読めば旅に出たくなる文庫オリジナルアンソロジー


昨年8月に刊行された『おいしい旅 初めて編』『おいしい旅 想い出編』と同シリーズのアンソロジー

半分は納得で、もう半分は「また騙された」と思った。
というのも、『おいしい旅 想い出編』はともかく、『おいしい旅 初めて編』が「おいしい旅」とはかけ離れた重苦しい内容で、タイトル詐欺だ!と思ったことが強く印象に残っているから。しかし、今回は『しあわせ編』。今度こそハッピーな話が多い、思わず旅をしたくなる内容を期待していた。
結果は「おいしい」35点/50点、「しあわせ」15点/50点で合計50点/100点といったところ。なので半分。
旅での出会いをきっかけにしてその後の人生が好転しそう、話の後に幸せが待っているかもしれない、という話がほとんど。これはこれで一つの幸せの形だとは思うのだけど、全力でハッピーな話は皆無。旅の途中は身につまされるほど不幸な主人公や、不運続きで内心で愚痴っている主人公ばかりで、不幸せオーラと哀愁とイライラの方が断然濃い。なので旅の様子を読んでここに行ってみたいと思うことはなかった。
それでも「おいしい旅」の方はおおよそ楽しめたのは良かった。中には「おいしくない旅 不幸せ編」としか思えない作品もあるけれど。
惹かれたのは石垣島の浜崎の奥さんのマース煮(「夕日と奥さんの話」)と、三沢のほっき丼(「旅の理由」)。現地ならでは海産物を現地の味付けで楽しむ、旅の醍醐味が味わえる。あとは最後の話のアイスランド料理(「オーロラが見られなくても」)。味の感想とリアクションが明確で料理が最も美味しそうに感じられる一編。
そんなわけで、しあわせ編と言われると首をひねるが、おいしい旅ではあった。後半上昇する話が多いので後味は悪くないけれど、もっと旅の楽しさが感じられる、ここに行ってみたいと思わせてくれる話を読みたかったというのが正直な感想。