いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「86―エイティシックス― Ep.13 ─ディア・ハンター─」安里アサト(電撃文庫)

86―エイティシックス―Ep.13 ─ディア・ハンター─ (電撃文庫)

首都を騒がす自爆テロ、〈レギオン〉の猛攻、大量発生する避難民。憶測と疑心が混乱を生むなか、一部の共和国民が連邦領内で武装蜂起を決行。前線で撤退支援に従事する機動打撃群も鎮圧に動員される。しかし、レーナがいまだ後方に留め置かれたままで、シンは心をかき乱す--一方、ユートはチトリら〈仔鹿〉を伴い、旧共和国領への『最後の旅』に出ていた。彼らの伝言を受け取ったダスティンは過去と現在の狭間で苦悩し、その様子にアンジュは自己を苛む。
Ep.13『ディア・ハンター
"親愛なる彼に贈る言葉は呪いか、それとも……。"


うわぁ。
よくもまあ次から次へとこんなえげつない非人道的なこと思いつくなあ(誉め言葉……なのか?)
共和国の負の遺産再び……どころではないな。四度だか五度だか。
〈仔鹿〉。戦後にエイティシックスを始末するために、同じエイティシックスを素体に造られた人間爆弾。助けた共和国人の中にいた〈仔鹿〉が市内で爆発した事件をきっかけに、またしても危うい立場に立たされるエイティシックスたち。人類がレギオンの攻勢により劣勢に立たされる状況にありながら、それでも意地汚い権力争いをしている連邦の大人たち。その両方のとばっちりで幽閉されるレーナとアネット。こういう負の連鎖も最早お馴染みだ。
〈仔鹿〉の少女チトリと軍を抜け出し彼女と行動を共にするユートに、チトリ幼馴染みであったダスティンと恋人アンジュが絡んだ、青春というには硝煙の匂いと悲哀が濃いやるせないエピソードが展開されていたのだが、その外で渦巻く悪意のあまりの濃度に彼らの涙にまるで集中できない。女王様不在で主人公はほぼずっとイライラしているし、〈レギオン〉相手に戦闘している時が一番健全に感じるという皮肉な状態。
これでそれなりの事態の解決が見られれば良かったのだが、結末まで悪意に悪意を重ねてくる。まさかこの悪意の塊が最終章の序章だとは。
皮肉にも共和国人の生き残りが思った「人間なんてこの世界にはどこにもいない」に激しく同意してしまった。やっぱり人類の敵は人類。こんな人類もう滅べばいいのに。〈レギオン〉が正義の掃除屋に思えてきた。
そして舞台は事実上の「八六区」へ。連邦なんて気にせず自分たちが生き残るためだけに戦って欲しいところだが、レーナが人質状態という。レーナが手元に居れば戦うが理由がないから必然の配置だが……ホントえげつない。