いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「星が果てても君は鳴れ」長山久竜(電撃文庫)

星が果てても君は鳴れ (電撃文庫)

「見つけてあげるわよ。正しい音色の、奏で方」
他者の影が纏うノイズに侵され、命を絶とうとした俺の前に、突然そいつは現れた。元国民的女優の、星宮未幸。素顔は勝気で、時々猫かぶりで……そして、未来が視える少女。
俺の自殺を止めるため始められた、奇妙な同棲生活。過去の傷を優しく上書きするような日々には、小気味良い音色が鳴り始めーー
だけど、俺は何も知らなかったんだ。あいつが走り続けた意味も、その足を止めてしまった理由も、未来に隠したたった一つの悪戯でさえも。
これは、過去と未来を乗り越える別れの青春譚で、
そして、悠久の時を超えても響き続ける愛の物語。

第30回電撃小説大賞<銀賞>受賞作


他者や人工物など様々なものから聞こえるノイズに悩まされ、さらには唯一の肉親の母を事故で亡くし、人生に絶望して自殺しようとしていた主人公が、何故か若くして引退した元国民的女優に助けられるところから始まる、ボーカロイド×SF(少し不思議)×難病ものな青春ラブストーリー。
なるほど、ボカロをこう使うのか。これは元国民的女優でないと実現不可能だ。国民的女優とかアイドルとかそれに類する肩書の付いたヒロインって、(特にweb小説では)作者の妄想や承認欲求を満たす以上に特に意味のない設定の作品しか読んだことがなかったので、そこのにちゃんと意味がある時点でちょっと感動している。
ただ、残念ながら難病ものなのよね。
出版業界が乱発しすぎた所為で、最早ジャンル自体に嫌悪感を感じている難病もの。泣くことを強制しているような演出と亡くなった人の想いの過度な美化、そんな演出過剰が鼻に付くので嫌いだ。
本作もエピローグにはややその傾向があるものの、その前の必死さな生き様が良かった。青春小説として生きることの難しさや自分の生きた証を誰かに遺すことなど、「生」をテーマにした強いメッセージを感じられた。
難病もの嫌いの擦れてしまっているオジサンには合わなかったけれど、「生きること大切さ」を若者の文化で若者の言葉で謳う、若者のための作品。ライトノベルとして本来あるべき姿のように思えた。