いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「Unnamed Memory -after the end- VI」古宮九時(電撃の新文芸)

Unnamed Memory -after the end-VI (電撃の新文芸)

「ティナーシャ、もう少し頑張れるか?」
世界外からもたらされた呪具を探して、永い旅を続ける逸脱者夫婦。彼らは「翌朝の一人」という都市伝説の存在を知って、その正体を突き止めようと動いていた。
独裁政権の下、移民たちの街を攻撃する基地と、何故か陥落しない都市。両陣営の衝突に関わることになった二人は、そこでとうに死んだはずの人間と再会する。雨が止まない街で待っていたのは、世界崩壊の危機だった。
呪具破壊の旅に結着がつく、新章第六巻。


逸脱者として世界外からもたらされた呪具を探す夫婦の旅がいよいよ佳境に入ったシリーズ第6弾。
いつの間にか人が増えているという「翌朝の一人」の都市伝説を追い、紛争地域に飛び込む夫婦の話と、最後の呪具と妻ティナーシャを探しに享楽街に赴くオスカーの話の、二つの物語が語られる。千年単位で時代が大きく進んでいることもあり、時代背景がどこか近未来的で、ファンタジーよりもSFの色が強くなっている。
呪具が残り少なくなって旅の終わりが近き、哀愁や寂寥感を感じる……暇のない衝撃的な二つの物語だった。
一話目はナークの最期が突然で、その他がすべて吹き飛んだ。終わりまでずっといるものだと。。。
後から思い返せば、ティナーシャにとって重要な人物が出てきていたので、そこの心の機微や以前との心境の変化を感じたり、実は最後の夫婦の掛け合いが楽しめる話だったので、二人の空気感や会話劇をもっと堪能しなければならない物語だったのだが。
二話目はもっとショッキング。
ティナーシャが陥った状態に、戦い合うことを強いられる状況に、感情がぐっちゃで「うわー」ってなる。担当や周囲から度々「人の心がない」と言われているらしい著者の真骨頂のような物語だった。
でも、しばらくして冷静に考えると物語の構造的にハッピーエンドはあり得ないのだから、ちゃんと二人でいる時間があったことも、ナークとの別れが描かれたことも、オスカーの中で自我を保ったティナーシャの事も、かなりマシな方の着地地点だったのかもしれないと思えてくる不思議。
次回最終巻。呪具を送り込んだ異世界人との最終決着は? 夫婦の結末や如何に?