その世界で、人々は生きる意味を失った。何でもできるAIが誕生したとき、人間は何もかもに満足し、人生に価値はなくなった。絶望の世界で、少女・冬間美咲は願う。自分のヒーローを。生命の価値を取り戻す、唯一無二の存在を。香屋歩。これは人に作られた「物語」が、人が生きる「現実」を書き換える道程。……いま、八月の架見崎が終わる。 ウォーター&ビスケットのテーマ、第10弾。
八月の架見崎の結末。第一部完なシリーズ10冊目。
香屋歩という自分のヒーローと相対する為に悪役を演じ続けたいトーマ。リリィを選挙に勝たせるために奮闘する秋穂。自分がAIという事実にそれぞれの視点で葛藤する架見崎の住人達。そして何も語らず動かない香屋。佳境なのに登場人物たちの視線の先がここまで揃わない物語があるだろうか? そんな風に思いながら読み進めていたら、選挙の前に始まってしまった白猫inヘビによる殺戮ショー。
これは綺麗に収束した……のか? 読み終わっても半信半疑だ。
ゴールはキャラクターごとバラバラで、展開は二転三転のカオスな状態だったこともあって、最終的に納得感のある答えが出てきたとしても、そこへの持って行き方が力技で無理やり盤面をひっくり返したように思えてスッキリはしなかった。
それと香屋の勝ち方が半分彼らしくなかったのも、モヤっとしている一つの要因。
ヘビというジョーカー 命を弄ぶ絶対強者を退場させて、望んだ結果を勝ち取るあまりにも大胆な計画。戦いから逃げて戦わずして勝つその手法は見事というしかなく、その発想には感心するばかり。しかし、その過程でいくつもの死を迎えさせてしまったのは「生きること」を絶対の正とする香屋にとっては敗北ではないだろうか?
トーマに、架見崎の住人たちに「生きること」を突きつけたラストは「生きろ」と謳い続けたこのシリーズらしい、香屋歩らしい答えではあったけれど、そこに説得力を持たせられたかというと疑問が残る。
だからこそ「完」じゃなくて「第二部へ続く」なのかも。香屋にも読者にもは考え続けろ、悩み続けろと。
第二部は新しい架見崎ルール作りから? 香屋とか最もルールを作らせちゃいけない人種に思えるんだが・・・。