いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「果てない空をキミと飛びたい 雨の日にアイドルに傘を貸したら、二人きりでレッスンをすることになった」榮三一(HJ文庫)

「私はもう矢ヶ崎さんしか頼ることが出来ないんです」
飛行機が身近になった世界。航専科所属の少年・矢ヶ崎矧は、雨の中で泣く人気アイドル涼名美月を見つける。その時はただ傘を貸しただけだったが、翌日美月と再会した矧は彼女に飛行機操縦の教官を頼まれる。空が怖くて今にも心折れそうな美月に、親身になって教える矧。徐々に美月もよく笑うようになっていき――
飛行機バカの優しい少年が空が怖くて飛べないアイドルに前へと進む翼を与える、尊くもピュアな学園青春ラブコメ

第14回HJ文庫大賞<金賞>受賞作。



空×アイドルの近未来SF学園ラブコメ
近未来、航空機+戦闘機、アイドル、そしてボーイミーツガール。作者の好きを詰め込んだ新人賞らしい作品。
近未来の技術の設定や主人公たちの通う航空学園周りなど、用語集まで用意して説明されるきっちりした世界観作りが好印象。特に航空機に関係の説明は技術や理論、欠点まで事細かく、空に対するロマンを強く感じさせてくれる。
そんな航空学園で出会ったのが飛行機バカな純朴少年と、アイドルだけど自分に自信がない少女。奥手な二人が飛行機操縦の訓練を通じてゆっくりと距離を縮め愛を育んでいく様子が、可愛らしく微笑ましい。
と、入りはとてもいい感じだったのだけど、その後失速。
理由はあまりにもストーリーが平坦だったから。
上手くいっていなかったはずの飛行機の操縦訓練は順調そのもの。後半になっても主人公にもヒロインにも大きな失敗やピンチがないので、ドキドキハラハラする箇所は皆無。おまけにヒロインは初めから好感度マックスで、恋に落ちる瞬間などの恋愛的な盛り上がりもない。
この作品風に言うなら、スムーズに離陸して快晴の空を真っ直ぐ飛んで、トラブルもやり直しもなく綺麗に静かに着陸したフライトで、特に印象に残ったシーンがない。
話が途中で続きそうな感じなので、次はストーリーに起伏を付けてドキドキハラハラさせてほしいところ。せっかくロマン溢れる世界観なのだから。

「終末なにしてますか? もう一度だけ、会えますか? #11」枯野瑛(角川スニーカー文庫)

〈最後の獣〉が創り出した少年は、最期の選択を迫られる。今ここにある幸せを慈しみ、浮遊大陸群《レグル・エレ》を滅ぼすか――多くを奪う邪悪として、自分自身が滅ぼされるか。偽りの楽園は罅割れ、幸福のかけらも削れ行き、少年は自身の存在する意味を覚る。
「ぼくはちゃんと、あなたたちと戦います」
聖剣モウルネンを差し向けるティアットに、示す答えは。そして、崩れ行く世界は、その跡に何を残すのか。
明日を繋いだ妖精たちの第2部、終幕。


シリーズ最終巻。浮遊大陸群の行く末が掛かった妖精兵たちの最後の戦いが描かれる。
これ以外ない結末だと思うと同時に、納得のいかない部分も抱えている複雑な心境だ。
レプラカーンたち、それぞれの戦いには沁みるものがあった。
アルミタとユーディア、後輩たちの戦いには二人の切なる願いが乗せられていて切なく温かい。特にユーディアの持つ元ヴィレムの剣の発動条件が、ユーディアとそしてヴィレムの優しさを物語っていて、前シリーズと思い出と共に切なさが増す。
先輩たち三人は、パニバルとコロンは前回目立った分サポート役といった体だったが、ティアットは背負った希望に押しつぶされることない堂々たる立ち振る舞いに成長を、ちょっと抜けた思考ややり取りに彼女らしさを感じられて、これこそ主役、第二部はこの子の物語だったんだと実感した。
ただ、彼女たちの勝利が〈いずれ訪れる最後の獣〉の核として生まれた少年、モーントシャインの急成長と覚悟によって成り立っているのが、何とも言えない気分になる。物分かりの良すぎる子は見ていて切なくなるんだよ。それに根本的な問題は何も解決していないし。元々が滅びゆく世界の物語なのだから、当然の結末だと頭では理解しているし、その中では最大限のハッピーエンドだとも思っているのだけど。
それにしてもこのエピローグはズルい。直前まで大賢者や地神たちの思い出を語り、妖精兵たちの思い出を語り、失ったものは戻ってこなんだと何度も示した後にこのエピローグ。そりゃあ泣くよ。
厳しい世界と厳しい運命に翻弄されながらも、少女たちが刹那の命を燃やす力強く美しい物語だった。『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』1巻から七年、長い間お疲れ様でした。何度も泣ける物語をありがとうございました。
終幕と言いつつ、番外編とかスピンオフとかありそうだけどw

「継母の連れ子が元カノだった7 もう少しだけこのままで」紙城境介(角川スニーカー文庫)

親の再婚できょうだいになった水斗と結女は、元恋人同士。
文化祭の一件から、元カップルだった記憶もいい思い出になりつつある秋のこの頃……結女が生徒会書記を務める、新たな日常も始まっていた! 緊張の面持ちで踏み入れた生徒会室に集うのは――意外と恋に多感な高校生たちで!? 水斗と散々嫌みを言い合った手前、いまさら好きだと言いにくい結女は、会長・紅鈴理はじめ女子メンバーの恋バナをヒントに、水斗から告白させるための“小悪魔ムーブ”を思いつき!?
「――私たちの、誕生日。予定、空けておいてね」
そしてきょうだいとして迎えるその日に、二人の想いは向かい合う――?


秋。結女の生徒会の仕事がスタートし、体育祭に二人の誕生日とイベント目白押しな7巻。
平和でイチャラブなラブコメだった。ここ数巻は葛藤とか自分なりの答えとか決意とか、緊張感をはらんだシリアスな回が続いていたので、久々に気軽に楽しめる話でほくほく。
しかしこれはどうしたことだ。残念さとヘタレ具合に定評があるヒロイン・伊里戸さん家の結女さんが恋愛強者のようだ。
ちょっとエッチな恋人ムーブを決め込むいさなを1ワードで黙らせ、生徒会の先輩方を次々となぎ倒し涙目にさせ、おまけに定期テストでは一位を奪還して同じ生徒会メンバーの一年生をぎゃふんと言わせる、結女無双が繰り広げられていた。
いさなはともかく、こと恋愛に関しては生徒会メンバーが結女以上の残念さを誇っていたからこその結果ではあるが、4巻でした決意がここに来てやっと実を結び始めていることに、ずっと見守ってきた読者としては感動を禁じ得ない。時間かかったなあ(苦笑)
まあ、実際の水斗とのやり取りでは、相変らず空回りと詰めの甘さが出てしまっているのだけど。そこも結女の魅力の一つ。いや大半か?
二人のプレゼント交換、の前の結女母の喜びようと水斗父の言葉にグッとくる誕生日イベントも良かったし、随所にかわいい結女が読めて大満足の一冊だった。今回は結女が攻勢だったので次は水斗の反撃に期待したいところ。

「青い春を数えて」武田綾乃(講談社文庫)

放送部の知咲は、本番の舞台にトラウマがある。だが、エースの有紗の様子が変で――(白線と一歩)。
怒られることが怖い優等生の細谷と、滅多に学校に来ない噂の不良少女・清水。正反対の二人の逃避行の結末は(漠然と五体)。
少女と大人の狭間で揺れ動く5人の高校生。瑞々しくも切実な感情を切り取った連作短編集。


前の話に出てきた人物が次の話の主人公だったり、チラッと出てきた人物が先の話の主要人物だったり、登場人物が少しずつ重なっているリレー形式で高校生が主役の短編集。
学校や社会に感じる窮屈さや息苦しさ。型にはめられることやレッテルを張られることへの忌避感と、逆にそこからはみ出すことへの恐怖感。夢やプライドと現状との隔たりへの苦しみ。
きっと誰もがどれかは感じたことのある若い頃の葛藤に、悩み苦しみ抗い怯える思春期の少女たち(+男子1名)の今を切り取った作品だった。これも一つの青春模様なのは間違いないが、「青春」よりも「思春期」の方を強く感じる。
こういうことはとうに通り過ぎているおっさんが読むと、こんなこともあったなーとノスタルジーな気分になれて楽しい読書時間だったが、主人公たちと同年代が読むとどう思うのだろう。共感できて嬉しい気分になるのか、同じ悩みを抱えている人がいることに安心するんだろうか、悩みに対して特に答えがないことに落胆するんだろうか。
学生時代に読んでみたかったな、と思う作品だった。

「義妹生活3」三河ごーすと(MF文庫J)

悠太と沙季が義理の兄妹になって初めて迎える夏休み。何故か悠太が働く書店に履歴書を出した沙季は、アルバイトの後輩として働き始めることに。兄ではなく、先輩として彼女と接していくにつれて、悠太は今まで見えていなかった、沙季の新たな一面に気づいていく。そんなある日、同じシフトで働く読売栞が、沙季の様子にひとつの不吉な兆しを見出す。
「あの子の真面目で自分に厳しい、甘えられない性格は、いつかあの子自身を壊してしまうかも」
決断を迫られる悠太。期待しない、干渉しすぎない――その約束を破り、彼女の在り方に影響を与えてしまうような介入をすべきか、否か。兄として選んだ“選択”とその結末は……?


基本はバイトと勉強、一日だけプールな、8月後半の一週間を切り取った3巻。
件のプールイベントが浮いている件。
他人とのコミュニケーションをとることを苦手としている二人にとって、真綾以外に普段絡みのない同級生も参加するこのイベントはストレスでしかないと思うんだけど。いくら沙希がプールが好きとはいえ、普通に楽しめていることに強い違和感がある。行く前のプールを推す悠太の行動もなんか不自然。夏だから水着イベントを無理矢理ねじ込んだように思うのは穿った見方が過ぎるだろうか。
それはともかく、遅ればせながら悠太も自分の恋心を自覚して、晴れて?両片想いになった二人。シリーズのターニングポイントになる回だった。
両片想いのもどかしさを楽しむのがメインコンテンツなのは分かっているが、ここまでストイックで自分の幸せが二の次三の次になる思考の二人がやると、甘さや両片想い特有のムズムズ感よりも切なさや辛さ勝ってしまう。どうしようもない配偶者に苦労した親を、ずっと見てきてから出て来る考え方が遣る瀬無い。こんなに愛情が籠っているのに痛々しい「兄さん」は他にないだろう。
そして最後にタイトル『義妹生活』の意味が明かされるのだが、こんなところにも沙希の我慢と自分を押し殺す要素があるとは……
悠太はどんな結末でも自分で踏ん張れそうな安心感があるが、沙希は作中でも心配されているとおり、どこかで壊れそうで怖い。
さらにお互いを想う気持ちが強くなった二人。秋はさらにすれ違ってしまうんだろうなあ。


読売先輩の口絵がひでえwww