いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「カクリヨの短い歌」大桑八代(ガガガ文庫)

カクリヨの短い歌 (ガガガ文庫)
カクリヨの短い歌 (ガガガ文庫)

もし「歌」について語る機会があるのならば、断絶という一語で足りてしまう。遠い遠い昔に生まれた「歌」は、ある時に一首の例外もなく幽現界(カクリヨ)に消えた。それから後に、僅かずつではあるが「歌」は還ってきたが、昔の人たちのようにただ無邪気に楽しむことはできない。「歌」のありかたは、根本から変わってしまったのだ。白髪の青年・祝園完道と類なき天才歌人・帳ノ宮真晴の命運が交錯する――失われてしまった和歌を仲立ちに。新星、大桑八代がおくる・三十一(みそひと)文字(もじ)を巡る物語……。第7回小学館ライトノベル大賞ガガガ大賞受賞作。


短歌=呪文の和風異能バトル。基礎はライトノベル、上物が「短歌」を柱にした純和風といった感じ。
ラノベ業界の異端児ガガガ文庫の大賞作品にしては、予想外にライトノベルらしかった。(そういえば近年は大賞は完成度重視で、危険なのはガガガ賞や審査員特別賞の方か)
しかしそこはガガガの大賞。キャラクターにはかなりのクセがある。 
まずは、何を考えているか分からない白髪の若者・完道と、歌の為なら人の命も何とも思わない狂人・真言の二人の主人公。二人ともどこか浮世離れしていて、それぞれに別種の不安感を憶えさせる変人。その二人が合いまみえる最後の対決は戦っているのに愛を語らっているような奇妙な感覚にとらわれる。
それと物語に花を添える裸足の童女・藍佳。見た目以上に幼い言動で可愛らしくほんわかした気分にさせてくれるが、彼女にも秘密があってその実かなり尖っている。
そんな一癖も二癖もあるキャラ達が活躍する舞台も、神社を思わせる主人公宅や昭和テイストな喫茶店、古風な漁村などの趣があって雰囲気がいい。
ただ、この作品の中心である「短歌」が上手く使えていたかというと、微妙。
和風な雰囲気を出すことには一役買ってはいるが、それが短歌である必要は感じない。また、短歌を詠むときは右下で要約が書いてあるのが分かりやすくて助かる反面、間抜けに見えてしまって少しだけだが雰囲気を壊してしまっている面も。
それでも新人とは思えない完成度と雰囲気のある作品だった。この作品は良い余韻を持って終わっているので、これ続きよりは新しい物語が読みたいかな。