いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「フレイム王国興亡記1」疎陀陽(オーバーラップ文庫)

フレイム王国興亡記 1 (オーバーラップ文庫)
フレイム王国興亡記 1 (オーバーラップ文庫)

「貴方が・・・勇者様ですか?」「…いいえ、普通の銀行員です」
通勤途中コーヒー片手に異世界にトリップしてしまった主人公、松代浩太。『勇者』として召喚されたはずなのに、そこは魔王は不在、悪の帝国も開店休業中、ごくごく平和な国。しかも、召喚後早々に王宮から放逐されド田舎『テラ』に左遷されてしまう。だが、テラで穏やかな生活が始まるかと思っていたら、モンスターなんかより、シビアで恐ろしい魔の手が襲いかかる――それは『赤字国債』! このままだと財政が破綻するという状況を前に『銀行員』浩太が黙ってない! これはチート能力ゼロの主人公が、知恵と勇気で魔王以上の強敵に立ち向かう物語。人気WEB小説待望の書籍化!――君は今、歴史の証人になる。


あらすじの“銀行員”という単語に惹かれて買っておいてこんなことを言うのもなんだが、ここまで銀行員を押し出してくるとは思ってもみなかった。
ストーリーは、異世界に勇者として召喚された主人公が、その異世界にはない現代の知識で無双する/現状を打破していく。という割とよくあるタイプの話。今作の場合は財政破綻寸前のド田舎地方都市の再生を任されるわけなのだが、その無双のし方が一味も二味も違う。
基本的に中高生がターゲットのライトノベルでは主人公・松代浩太の26歳という年齢だけでも結構異端だが、その内容はさらに異端な本気の経済学。領主=現王の姉に対する説得と授業を兼ねた準備編は、まるで大学の講義でも受けているよう。
そしてそれを実践する後半は、全く甘さのない大人の世界を見せつける。
相手の心理、主に弱点を突く交渉術や、法律上は問題なくても倫理的にはどうかと思うことも厭わずやっていく容赦のない姿勢に、普通のライトノベルとの違いを感じる。特に普通の作品なら描写されない物事の裏側・悪い面を積極的に描写していくスタンスに驚かされる。
それにしても松代君、王族相手でも物怖じしない精神力やあくどいことも厭わない実行力、冒頭の紹介『普通の人』とは一体何だったのか。
表舞台の華々しさを見せたり励ましたりするのではなく、努力をしないものを切り捨てることで努力の尊さを詠う辛口のライトノベル。オリジナリティ十分で非常に面白かった。


ところでメインヒロイン(多分)が表紙にいないですが、それは?