いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「小説の神様」相沢沙呼(講談社タイガ)

小説の神様 (講談社タイガ)
小説の神様 (講談社タイガ)

僕は小説の主人公になり得ない人間だ。学生で作家デビューしたものの、発表した作品は酷評され売り上げも振るわない……。
物語を紡ぐ意味を見失った僕の前に現れた、同い年の人気作家・小余綾詩凪。二人で小説を合作するうち、僕は彼女の秘密に気がつく。彼女の言う“小説の神様”とは? そして合作の行方は? 書くことでしか進めない、不器用な僕たちの先の見えない青春!

学生にしてプロの作家である千谷一也は現在スランプ中。担当に共作の話を持ちかけられた相手は、転入生でクラスメイトの美少女で――というシチュエーションだけなら大変ラノベチックな本作であるが、内容はそんなことを一切感じさせないほど苛烈で過激。軽さ、甘さなんてものは存在しない。
作家であり若者(高校生)である少年と少女の苦しみ、葛藤、怒りなどの負の感情をまざまざと見せつけ、そこに世間の理不尽、無自覚な暴力も合わさって、剥き出しの感情がぶつかり合う。良く言えばエネルギッシュな、悪く言えば乱暴な文章が紡がれていて軽くないショックを受けつつも、共感は出来なくてもこんなにストレートに心情を伝えられてしまうと、感情は揺さぶられるものなんだと実感する。
まあ、違う意味で感情を揺さぶってきた人物もいるが。
主人公の一也がそれはそれは卑屈で浮き沈みも激しく、自分の不機嫌を周囲にまき散らす、控えめに言ってもクズ野郎。同じことで何度も何度もうじうじしやがって、似たような後ろ向き台詞ばかり吐きやがってと、何度ぶん殴りたくなったことか。4回か5回か、多分それ以上。でも、このくらいの感受性と繊細さを持っていないと、芸術家肌の作家は務まらないんだろうな。
学生作家、青春の文字で好きなジャンルだろうと軽い気持ちで読み始めたら打ちのめされた。衝撃的な作品だった。