いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「アンドロイドの恋なんて、おとぎ話みたいってあなたは笑う?」青谷真未(ポプラ文庫ピュアフル)

佐藤真白は、義肢のリハビリ専門病院で事務スタッフとして働いている。外見が生身の女性と寸分違わぬ精巧さで作られているが、実はある研究機関から送り込まれたアンドロイドだ。ある日、院内の庭で散らばったカードを集めている青年・響に声をかけられる。響は事故で左腕を失い、義肢のリハビリのため病院へやってきていた。屈託なく笑う快活な響とのふれあいの中で、真白の中で処理しきれない感覚が生まれて……。


病院の事務で働くアンドロイドの真白が、リハビリ患者の青年・響に恋をする物語。
アンドロイドの恋という単語に惹かれて読んだら、人間よりも人間味の濃い恋物語が出てきた。
初めのうちから、人間が恋した時に感じるドキドキをアンドロイドの感覚に置き換えた表現が新鮮で、その表現方法に感心していたのだけど、そのアンドロイド的表現は真白が恋を自覚してからが真骨頂だった。
真白がとにかく可愛い。拙くままならない愛情表現や、盲目になることで起きる失敗の数々など、自分をコントロール出来ていない感じが人間のそれより強く伝わってきて、自然と顔がほころんでしまう。
そのたどたどしくて可愛らしい恋模様と一緒に感じるのが、無機物と有機物の大きな隔たりと、恋をすればするほど蓄積されるエラーに近づく別れの予感という二つの切なさ。
そんなピュアで甘酸っぱい恋物語の結末は……うーん?
彼女の正体にもその他の事柄にもしっかり伏線が張ってあるので(帯の文句が若干ネタバレだし)、事実関係には特に違和感はない。でも、どうにもオチがピンとこないと言うかしっくりこないと言うか。塞ぎ込んでいた少女が前向きになるいい話なのは間違いなのだが、この世界の技術水準なら他にやりようがあるような気がしてならない。
そこまでがとても良かっただけに、スッキリしない終わりにもやもやしている。