いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「小説の神様 あなたを読む物語 (下)」相沢沙呼(講談社タイガ)

小説の神様 あなたを読む物語(下) (講談社タイガ)
小説の神様 あなたを読む物語(下) (講談社タイガ)

あなたのせいで、もう書けない。親友から小説の価値を否定されてしまった成瀬。書店を経営する両親や、学校の友人とも衝突を繰り返す彼女は、物語が人の心を動かすのは錯覚だと思い知る。
一方、続刊の意義を問う小余綾とすれ違う一也は、ある選択を迫られていた。小説はどうして、なんのために紡がれるのだろう。私たちはなぜ物語を求めるのか。あなたがいるから生まれた物語。

相変わらず関係の良化と悪化を繰り返す千谷と詩凪の作家二名。友達関係の悩みから自分嫌いに押し潰されそうな成瀬。三つの視点から小説の意義について考える下巻。
プロ二人に関しては、トラウマがある詩凪は言わずもがな、千谷にも書きたい欲は強いのに書けないもどかしさを感じさせるシーンが多く、これまで以上に小説に対する熱量を感じた。二人ともかなり尖っているから、その情熱を出す方向を間違ってぶつかってしまうけど。なんだか、少し趣味嗜好の方向性が違ったら盗んだバイクで走りだしそう。でもこのエネルギーがあるから、伝えたい言葉を形に出来るのだろう。まあしかし、本当に似た者同士だわ。
成瀬の方は、下巻も心を抉ってくる。過度な自信の無さと自分嫌いには流石に卑屈すぎると思うところはあるものの、自分を表現することへの障害の多さや、友人関係の難しさは大いに共感するところ。
そんな、悩める書き手たちを救っていったのは読者たちだった。
成瀬を救ったユイは、自分が好きなものを何も包み隠さず好きだと言えるその素直さが羨ましい。大人になればなるほどそう感じると思う。
あとはアニメ化の話になった矢花さん。糾弾する言葉がキツいのは匿名性ってのが一番の要因だろうけど、ボキャブラリーの無さも一つの要因じゃないかなと……あ、私のことですね。スミマセン。
そして雛子ちゃん。入院が長い子は大人びた子が多いイメージがあるけど、この子はそんなところ超越してしまっているような。千谷雛子先生から後光が見える。彼女が人間を読み、兄に言い聞かせた言葉を、そのまま詩凪に聞かせたかった。今回も沁みる言葉、刺さる言葉、考えさせられる言葉がいくつも出てきた中で、彼女の言った「お土産を持ち帰って欲しい」が一番好き。そういう心持ちで小説を読めば、心が豊かになりそう。
上巻からの命題に出てきた答えは、ごく普通の当たり前の答えだった。でも、そこに至る過程が痛みを伴う壮絶なものだったから、その言葉に説得力がある。この物語に出会えてよかった。私も、小説が、大好きです。