いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「やがてはるか空をつなぐ」山之臨(ファミ通文庫)

部室ではバルーン実験の準備が進んでいた。メンバーはロケットオタクの青桐七海、プログラマー山花俊、天真爛漫な後輩、町田佐奈の三人だ。実験の当日、彼らは近くの高校に通う赤森遙と出会う。活動に興味があるという遙は物理部へ入部を希望するのだった。彼女にはどうしても校庭でモデルロケットを打ち上げたい理由があるのだという。しかし過去に青桐が起こしたある事件をきっかけに実験は禁止されていて――。ロケットが紡ぐボーイミーツガール!

第20回えんため大賞特別賞受賞作。


そうか、「鬱憤をロケットに乗せて吹き飛ばしたい」という意味でのロケットだったか。空への渇望とか、宇宙や科学のロマンはないのね。
中身の話の前に「ロケットが紡ぐボーイミーツガール」というあらすじの謳い文句には、ここを期待して読んだ身としては文句を言いたい。少年少女達はすでに知り合い同士で出会いの物語ではないし、ロケットは特にロケットである必然性を感じないし。

という、勝手な期待して勝手に裏切られた話は置いといて、
泣かせたまま離れ離れになってしまった女の子の思い出を引き摺る少年、中学時代不登校になっていた少女、親の力関係の変化で好きな子と悲惨な別れを迎えた少年ほか、過去に強い後悔を持つ5人の少年少女たちの青春群像劇。
後悔のフラッシュバックに、親の抑圧への反発、現状の自分への不満など、鬱屈した少年少女の内面が丁寧に描かれる。その中で強く主張してくるのが自分が周りに持たれるイメージ、要するに「誰々らしい」に対する嫌悪。期待されているキャラを演じなければならない息苦しさを、打ち破ろうともがく彼らの姿が印象的。
そんなわけで、センシティブでネガティブな方面から、青春を感じさせてくるタイプの物語。これも一つの青春小説の形か。やや予想外ではあったけど、青春小説好きとして楽しく読めた一冊。