いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「つるぎのかなた」渋谷瑞也(電撃文庫)

「好きじゃないんだ、剣道。……俺を斬れる奴、もういないから」
かつて“最強”と呼ばれながら、その座を降りた少年がいた――。
“御剣”の神童・悠。もう二度と剣は握らないと決めた彼はしかし、再び剣の道に舞い戻る。
悠を変えたのは、初めて肩を並べる仲間たち、彼に惹かれる美しき『剣姫』吹雪、そして――孤高の頂でただひたすらに悠を追い続けていた、高校剣道界最強の男・快晴。
二人が剣を交えた先で至るのは、約束の向こう、つるぎのかなた。
「いくぞ悠。お前を斬るのは、この僕だ!」
剣に全てを捧げ、覇を競う高校生たちの青春剣道物語、堂々開幕!

第25回電撃小説大賞《金賞》受賞作
大変珍しい剣道ラノベ。剣道部員が活躍する話はいくつか記憶にあるけれど、現代劇で競技としての剣道を真面目に扱ったライトノベルは初めて読んだ。


これは熱い。
剣道の持つ張り詰めた空気や、努力と根性のスポ根というよりは、一対一の勝負、もしくは自分との勝負、とことん勝負の描写にこだわった作品。誰かとの約束、勝利への欲求、剣道に掛ける想いなど、試合場に立つ一人一人の気持ちがぶつかり合う試合がとにかく熱い。
そこに花を添えるのが個性豊かなんて言葉では生ぬるい、性格に難があるキャラクターたち。特に主人公の悠や乾兄妹の、剣道に憑りつかれた強者たちには狂気すら感じるほど。そんな濃い奴らの強い想いがほとばしっている勝負が、胸に響かないはずがない。
但し、新人賞らしく粗も多い。
最も顕著なのが、キャラクターが多すぎて完全に持て余している点。
会話のコミカルさも特長の一つではあるのだけれど(個人的にはさすがにチャラすぎると思うが)、みんな似たような軽い口調で、書き分けが出来ていない。そこに加えて呼び名の統一感の無さ。人によって上で呼んだり下で呼んだりあだ名で呼んだり。その二つが合わさって、誰が誰だか分からない場面かかなり多い。
キャラの多い作品と分かっているのだから、出版側で登場人物一覧を載せるくらいのことはしてほしい。
光るところがあれば新人賞らしく粗も目立ったが、その粗を補って余りある熱量と清々しさを感じる作品だった。