いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「異世界食堂 5」犬塚 惇平(ヒーロー文庫)

オフィス街に程近い商店街の一角、古い雑居ビルの地下一階にある『洋食のねこや』。平日はサラリーマンが多く通うありふれた洋食屋は、一週間に一度、土曜日にだけ「特別」なお店になる。先代の頃より三十年間「向こう」の客を絶品料理でもてなしていた『異世界食堂』は、『異世界料理のねこや』として新装開店する。それは、店の主が変わった一つの区切りの証。けれど、新たな看板を掲げて名前が変わっても、小さな食堂の営みは変わらない。ちょっと変わった給仕とともに、訪れた人々に美味しい料理をふるまい続ける。チリンチリン――。そうして今日もまた、土曜日に鐘が鳴る。


約1年半ぶり、久々のシリーズ第5弾。
おばあ様から店の鍵を託されたことで、店主の気持ちに変化が。店の扉に向こうの文字で『異世界食堂のねこや』の看板を掲げて、装いも新たに!なスタート。
とは言っても、異世界の人々が日本の洋食に舌鼓を打つ、定番の内容なのだけど。新しい客は、食べなれた日本人にはもうない新鮮な感動をもって魅了され、常連客は近況を報告しながらいつもの料理を食べたり、新しいメニューに挑戦したり。
ご新規さんの話で良かったのは『チリチキン』。不運な怪我から幸運がいくつも転がり込んでくる旅人の境遇が面白い。あの司祭様、ただのケーキ好きじゃなかったのね。
常連客では帝国の姫君絡みの話。着々と嫁入り準備が進んでいるエピソードと、本人はのほほんとパフェを楽しむ姿のギャップが微笑ましい。
また、今回はアレッタに関するエピソード多い。
店主にしろ向こうでの雇い主のサラにしろ、アレッタが周りにどれだけ愛されているのかが分かるエピソードばかりで、ついつい嬉しくなってしまう。向こうの人から見ても、やっぱりこの子は危なっかしいんだね。
今回も変わらず面白く腹が減った。ページを開けば美味そうな洋食と、それを食べる客の笑顔と、ちょっとした人情噺が待っている。変わらない良さが嬉しいシリーズ。