いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「世界で一番かわいそうな私たち 第三幕」綾崎隼(講談社タイガ)

フリースクール〈静鈴荘〉に通う岩瀬知香は、中学校への復学を強要する母親との問題に悩んでいた。彼女が学校に行けない「本当の理由」を告げられた新米教師の佐伯道成は、先輩教師の舞原杏と救済の道を探す。そして明らかになる杏に隠された「世界で一番かわいそうな夫婦」の秘密。戦後最大の未解決事件が起きた十年前に時計の針は巻き戻され、すべての罪は白日の下にさらされる。

フリースクールを舞台に、10年前のバスジャック事件と今が複雑に絡み合う愛と贖罪の物語、完結編。


えっ? ……あ、そうか。ここで終わりか。
残りページに気付かないくらい夢中で読んでいた。詩葉の涙に感化された直後だったのもあって、しばらく呆然としてしまった。

事実関係は第二幕終了時で予想できたものと大きなズレはなかった。杏の婚約者が追い詰められた理由と、杏の佐伯に対する当たりの柔らかさの理由が予想と少し違ったくらい。でも前者はともかく、その後者が問題だったわけだけど。
杏先生が佐伯に対しても毒親たちに対してもあんなに冷静にいられるのは、すでに心が壊れてしまっていたからだったなんて。そこに至る不運としか言いようがない不幸の連鎖に打ちのめされた。そんな彼女が唯一感情をぶつける先、それを受け止める相手にもまるで落ち度がないのが、また遣る瀬無い。第二幕ラストの瑠伽の言葉「世界で一番かわいそうな夫婦」の意味を、苦く悲しく噛み締めさせてくる、そんな最終巻だった。
しかし、その夫婦にも劣らない「世界で一番かわいそう」に相応しい少女が一人。
こんな悲しい病気の快方があるかよ! 詩葉は何度大切なものを失えばいいのか。佐伯の実直さが恨めしい。
真実が、正直であることが本当に正しいのか。自分と誰かを守るための嘘は、嘘というだけで本当に悪なのか。と、問うたら彼はなんと答えるだろうか。
佐伯には、世間ではなく赦して欲しい人に赦してもらうためにも、真実を告げる覚悟より、騙し続ける覚悟を持って欲しかった。というのが個人的な意見だが、読んだ人によって答えが違うであろう、正解のない考えさせられる物語だった。
大分泣かされたけど、彼らに出会えてよかった。

セカンドシーズンの可能性ありとな!?
少しは人生が好転した彼らを続きを読みたいような、更なる不幸に見舞われそうで怖いからそっとしておいてほしいような、複雑な気分。




おまけ
亮子先生あの人だったのかよ! そう言われてみれば、ある一点は優秀で他はクズなのはあの人の特徴だ。この後、ああなっちゃうのかーうわー。杏先生でも矯正出来なかったのが残念でならない……。