いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「101メートル離れた恋」こまつれい(講談社ラノベ文庫)

男子高校生の浅田ユヅキがある日目覚めると、女の子の人形の姿になっていた! 人形の名はセブンス。一流の魔法使いであり人形師である朝霧キョウコが作り出した、世界最高クラスのスペックをもつレンタルサービス型の美少女オートマタである……らしい。その役割は、依頼者との会話、家事、警備、さらに性行為にまで及ぶ。セブンスになってしまったユヅキは、さまざまな男性の性処理のためにレンタルされ、心をすり減らす日々を過ごす。やがて一ヵ月以上が過ぎ、精神的に限界を迎えつつあったとき、セブンスは女性の依頼者である高校生の少女イチコに出会う。そして、二人は次第に惹かれ合い……!?
第8回講談社ラノベ文庫新人賞《大賞》受賞作!


男子高校生の転生先は人間でも動物でもなく女性型のオートマタ。魔法ありではあるが現代寄りな近未来で日本(北海道)が舞台の世界観。というやや変化球な異世界転生もの。
この世界のオートマタの使われ方がえげつなくて「幼気な男の子になんて惨いことを……」と、序盤はかなり印象が良くなかったのだけど、それは後の話をドラマチックにする演出の一つだった。もう一人の主人公・イチコが出てくると世界が一変する。
そうこれは、右も左も分からない異世界でひとりぼっちで日々精神をすり減らし続ける少年と、学校ではイジメにあい家族にも問題があるひとりぼっちの少女が、友情と恋心を育む濃密な4日間を描くボーイミーツガール。
やっていることは、おバカなことを言ったり冗談を言い合ったり、ランチやショッピングに行ったとり、年相応の他愛もない会話や遊びを楽しんでいるだけ。ただそれだけなのに、二人の境遇、間にあるいくつもの障害、交わらない未来を考えると、その時間が貴重で尊いものに感じて、段々切なくなっていく。
そして予想通りの結末へ・・・・・・へ? なんだと!?
出だしが雑で主人公浅田ユヅキの設定がいい加減なのは、ありがちだから思い切って削ったのかと思っていたが、それもある種の伏線だったのか。やられた。
少年少女の友情を描く青春小説として、またどんでん返しの驚きをくれる物語として、とても面白かった。納得の大賞。
ちなみに表紙は百合っぽいけど、女性型とは言えオートマタで中身が男の子とあって百合を感じることはほとんどないので、そっち系を期待する人は注意。