いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「キンダーガーテン・アーミー」蘇之一行(電撃文庫)

「緊急事態だ、大佐……うんこを漏らした」
その日、特殊部隊で伝説の英雄と呼ばれた男・黒柳力也は日本にいた。部隊を辞め、幼稚園の先生として働くためだ。幼児の世話など新兵の教育に比べれば容易い、そう思っていたが……。担当する『こぶたさん組』の園児たちは、うんこを漏らし、力也がケンカの仲裁に入れば股間を殴り、顔が恐いと泣き出す始末。
さらに善意で行った防犯対策(落とし穴)、不審者の捕縛(保護者)、幼稚園バスの強化(魔改造)など、ことごとく先輩のかおる先生に叱られてしまい……。
力也は園児たちの子守りを遂行し、立派に卒園させることができるのか――!?


元特殊部隊の兵士だった男が、訳あって幼稚園の先生の職に就き、色々やらかすドタバタコメディ。
相良宗介が幼稚園の先生になったら」というお話を予想して読んだら、そういう感じは序盤だけ。早々に状況に対応し自分の能力を有用に活用するし、子供たちとのコミュニケーションも、一部の子を除いて普通にとれるようになる。中盤以降に隊式隊列なんかもやらせていたが、あれぐらいならちょっとした愛嬌でしょ。園児は面白がってるし。
まあ、あれだけ真面目で好青年ならね。
顔も体格も怖い、言動もおかしいトンデモ野郎の第一印象から、彼の好青年ぶりに園児や同僚の先生が一人一人堕ちていく様子が、痛快であり微笑ましくもある不思議な感覚の面白さ。また、なかなか懐かない強敵二人(表紙の二人)には、元兵士らしい刺激的なイベントもあって、後半の盛り上がりも十分。
ドタバタコメディを期待したら、殺伐とした世界に生きていた主人公が園児や先生方との交流の中で、笑顔や心を通わせることを思い出していく、ハートウォーミングな部分が強い、予想外の方向で面白い作品だった。