いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「猫のお告げは樹の下で」青山美智子 (宝島社文庫)

ふと立ち寄った神社で出会ったお尻に星のマークがついた猫――ミクジの葉っぱの「お告げ」が導く、7つのやさしい物語。失恋した相手を忘れたい美容師、中学生の娘と仲良くなりたい父親、なりたいものが分からない就活生、夢を諦めるべきか迷う主婦……。なんでもない言葉が「お告げ」だと気づいたとき、、思い悩む人たちの世界がガラッと変わっていく――。 あなたの心もあたたかくなる連作短編集。


人生に悩む人たちがふと訪れた神社で、ハチワレ猫のミクジから送られるタラヨウの葉に記された四文字の言葉。不思議な猫の気まぐれ?に救われる人達の七編の連作短編集。
人と考え方が違ったり家族と上手くいかなかったりで人生に疲れ、自分は駄目だと卑下し、どこか意固地になってしまっている各話の主人公たちを解きほぐしていく、そんな物語。沁みる物語たちだった。
ただ優しいだけの物語ではないのが味噌。
現状に甘んじて流されている主人公たちに、たった四文字のヒントで「考えること」を思い出させる。そしてそれ以上のことはしない。それによって現状の見方や考え方が変わって、自分の力で事態の改善や好転を引き寄せていく過程が胸を打つ。幸運には違いないが、ただ与えられているのではなく自力で道を切り開いているので、主人公たちがその後も大丈夫だと安心できる。
また、ミクジが現れる神社の宮司さんの存在が大きい。
ある意味やりっ放しのミクジのアフターケアに勤しむ小太りの宮司さん。そのなんとも言えない憎めないキャラが愛おしい。彼の含蓄ある言葉で救われている人も。
甘みが強かった前作『木曜日にはココアを』と比べると、渋みや酸味が強め話ではあったけれど、今回も心を温めてくれる良い作品だった。