いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「むすぶと本。 『さいごの本やさん』の長い長い終わり」野村美月(KADOKAWA)

店主の急死により、閉店フェアをすることになった幸本書店。そこに現れたのは、故人の遺言により幸本書店のすべての本を任されたという都会から来た高校生・榎木むすぶ。彼は本の声が聞こえるという。その力で、店を訪れる人々を思い出の本たちと再会させてゆく。いくつもの懐かしい出会いは、やがて亡くなった店主・幸本笑門の死の真相へも繋がってゆく――。“本の味方!”榎木むすぶが繋ぐ本と人のビブリオミステリー。


舞台は東北のとある町。店主の急死により閉店することになった町で最後の書店。生前の店主から店の本たちを任された本の声が聞こえる少年・むすぶが、書店との思い出を胸に閉店フェアに訪れる客たちと本を繋いでいく物語。
むすぶが一年だった『『外科室』の一途』(ファミ通文庫)の後、むすぶが一年と二年の間の春休みの話。なので時系列的にも、むすぶの為人を知っておくためにも、『『外科室』の一途』の後に読むのがベターだと思われる。

メインの視点が閉店する書店に思い出がある人=大人であるため(一部例外有り)、むすぶが主な視点の『『外科室』の一途』の浮世離れした雰囲気とは違い、地に足の着いた印象を受けた。というか、二作続けて読んだのだけど、古参書店員さんのむすぶに対する素の反応が、ファンタジックな内容だった『『外科室』の一途』から現実に引き戻された感が強い。
本と会話ができると自称し、何かに憑りつかれたように突拍子もない言動をし、時々見えない恋人に話しかけている……傍目から見たら、どう見てもやべー奴だよね、むすぶ君(^^;
ストーリーの方は、閉店フェアは明るいイベントにはなっているけれど、本質が「書店のお葬式」で別れの物語なので、切なくなる話が多い。
特に心に響いたのは第三話と第四話の対比。負目と疑心暗鬼で死ぬ直前までいった作家と、極度の心配症から立ち直った書店員。一つの思い込みで人は幸せにも不幸にもなれる、心や意志の影響の強さを思い知る。そして、その病んだ心を救うのは昔も今も一冊の本であるのが、本好きとして嬉しい。これが『むすぶと本。』シリーズの最も伝えたいことなのだろう。
亡くなった店主やむすぶのように何事も笑ってポジティブにとらえられるのが理想なんだろうけど、性格や状況でそう出来ない人が大半。出来ない人の一人である自分が逆境の時、狭くなった視点を広げてくれる、少し生きやすくしてくれる本に出会えたらどんなに幸せだろうか。そんなことを思いながら読み終えた。