いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「マカロンはマカロン」近藤史恵(創元推理文庫)

下町のフレンチ・レストラン、ビストロ・パ・マルはカウンター七席、テーブル五つ。三舟シェフの気取らない料理が大人気。実はこのシェフ、客たちの持ち込む不可解な謎を鮮やかに解いてくれる名探偵でもあるのです。突然姿を消したパティシエが残した謎めいた言葉の意味は? おしゃれな大学教師が経験した悲しい別れの秘密とは? 絶品揃いのメニューに必ずご満足いただけます。


商店街の小さなフレンチ・レストラン〈パ・マル〉を舞台にした日常ミステリ短編集。〈パ・マル〉シリーズの三作目。
お客さんの言動のちょっとした違和感から、そのお客さんが抱える問題を三船シェフが読み解く様子を、若いギャルソン高築くんの視点で語られる。話ごとに主人公が違った二作目『ヴァン・ショーをあなたに』から、一作目『タルト・タタンの夢』の形式に戻った形。
三作目も人生の酸いも甘いも味わえる、極上の短編集だった。
260ページ程度(解説除く)で全八話と一話一話は短いが、その中に訪れる客たちの人生がギュッと凝縮されていて、時に切なく、時に甘く、時に苦く、どれも味が濃てく印象に残る。
その後を想像すると幸せな気分になれる「ムッシュパピヨンに伝言を」が一番のお気に入り。彼はあの後、飛行機に飛び乗ったのだろうか。そうであってほしい。後は、切なくも優しい「コウノトリが運ぶもの」や、少年の満面の笑みで終わる「共犯のピエ・ド・コション」も読後感が良くて好き。
逆に「タルタルステーキの罠」や「ヴィンテージワインと友情」辺りは後味が苦いだけでなく、その後を考えるとなんと言っていいのかわからなくなる。人間関係は難しい。
また、忘れちゃいけないのがギャルソン高築が丁寧に説明してくれるフレンチの数々。
普段はフレンチにはさほど興味が無いのに、これを読むと無性に食べたくなるから恐ろしい。和食洋食中華なら似たものを作れるが、フレンチはそうはいかないから。ブーダンノワール食ってみてー。
人の機微にフランス料理、大変美味しゅうございました。