いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「動機探偵」喜多喜久(双葉文庫)

令王大学の名村准教授は若き天才研究者。
人工知能(AI)を進化させるため、人の心の「なぜ」?を解きあかそうとしていた。特任助手の若葉とともに、不可解な事件の謎に挑む。遺品として見つかった出所不明の日本刀、慣れない登山に挑んだ青年の事故死、突然の婚約破棄、息子に殺人の罪をなすりつけた父親――
4つの謎に名村がたどりついた真相とは!?


AIの研究をする准教授と研究室の助手として雇われた元事務員が依頼された事件の真相を探る短編連作作品。
事件そのものは祖母の意外な遺品の謎や、普段絶対しない登山で事故死した息子が登山した理由など身近なもので、所謂日常ミステリ。しかし、『人間らしさ』とは『非論理性』だと考える准教授が、人間らしく振る舞うAIの研究の為、傍目には不合理で不可解に思える人の行動の真意を探っていく、事件を追う理由と切り口がユニーク。
また、とことん『人』に拘っていく姿勢も良い。事件が過去のものというのもあるが、事を起こした人物の周りを徹底的に取材し、その人の色々な面を見て、その人間性から不可解な行動の意味を推理する。その過程が面白い。
ただ、少々気になる点が。
シチュエーション上そんなに大きな事件は扱わないので軽く読めるかと思いきや、後味苦めな話ばかり。これは人の隠したいことを強引に暴いたことに対する戒めなんだろうか。
それと、この人たちの行動にはちゃんと動機があった。論理的な理由があるのは准教授の言う『非論理性』、後から自分でも「何であんなことしたんだろう」と思う行動とは違うような気がするのだけど。
事件に入る発想が新鮮で、動機を追う過程も面白く読んだのだけど、読後感は少々モヤモヤしているというのが正直なところ。