いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「紙屋ふじさき記念館 物語ペーパー」ほしおさなえ(角川文庫)

大手紙企業「藤崎産業」の記念館でバイトをする百花は、前社長夫人薫子に気に入られ夕食に誘われる。そこで、孫で館長の一成が幼い頃から薫子に育てられ紙への愛情が深くなったことを知る。ある日、彫金デザイナーの雫を伴い本社営業課長の浩介が記念館に現れる。彼は社長の息子で、いとこの一成を敵視し、記念館不要論を唱えていた。しかし、百花が和紙を使った新商品のアイディアを雫に提案したことで、事態は思わぬ方向へ。


大手紙企業の御曹司・一成と大学生バイト・百花の和紙をめぐる物語、パート2。
一冊を通じて百花の成長を描く物語だった。インプットの第一話、心に火をつける第二話、飛躍の第三話といったところ。
第一話は小説というより美濃旅行記
本美濃紙の説明に始まり、行くまでの鉄道の様子、建築様式からお店のラインナップまでわかる細かい街並み解説に、紙漉き体験レポート。旅好き、鉄道好き、小物好きの心を的確にくすぐってくる。中でも魅力的だったのが彼女たちが泊まった旅館。和紙をふんだんに使ったお部屋ってどんななんだろう。泊まってみたい。
第二話は記念館を潰そうとする敵の登場。
1巻からここまで優しい物語のイメージだったので、ここまで明確な敵が出て来るのは予想外。しかし、彼の登場と持ち込まれた仕事が百花が変わるきっかけに。
そして第三話。引っ込み思案の百花が、聞かれたからではなく思いついたからでもなく自ら商品を提案をする。
第一話で得た知識と経験、第二話で生まれた大きな仕事に携われた自信とヤな奴への反骨心を勇気に変えていくプロセスや、百花が一歩踏み出したことで彼女の世界が広がっていく様子、彼女の成長を感じられるのがとても良かった。百花は工作が好きだったり、人と喋るのが苦手だったりと、自分にとって共感しやすい主人公なので感動も一入。
蘊蓄小説、旅行記、成長譚。色々な面で面白かった。
今回は丸々百花の話で一成の影が極めて薄かったから、次があれば一成の話になるのかな。