いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「吸血鬼に天国はない (4)」周藤蓮(電撃文庫)

『死神』との戦いも乗り越えて、より一層の愛を深めたシーモアとルーミー。傍目にも仲睦まじく、なにより明るく素直に愛情を振りまくルーミーの姿は、出会った頃からの大きな変化を感じさせるものだった。
そしてもう一つ、変化はあった。白昼を切り裂いた夜空と、日の中を飛んでいく吸血鬼。あの日、怪異が多くの人の目に留まった。そして世界の理の箍が外れたように、これまで隠されてきた無数の怪物たちが静かに蠢き出していく。
そんな新しい日常。突如事件は起きる。
「――パパ! 会いにきたの!」
自分とどこか似ている『娘』の登場に動揺を隠せないシーモア。否定しきれない彼の態度に、ルーミーの視線はどんどん険しくなっていく……!


前回、『死神』との戦いを多くの人に見られた為に怪物の存在が人々に認識され、多くの怪物が表に出てきてしまう。そんな変わりゆく街を舞台に人間と怪物の恋が紡がれる第4巻。
シーモアの娘を名乗る謎の少女の登場で嫉妬に狂うルーミーという地獄絵図……にはならないか、やっぱり。過去に拘りそうにないもんなルーミー。死神相手に微かに見せた嫉妬が可愛かったからもっと見せてほしいけど、あれ以上は想像は出来ない。
それはそうと、ルーミーは男を駄目にするタイプの女性だったかー。
シーモア以外の人間には興味がないから、彼を害する可能性を事前に排除した結果、過保護になるのは必然か。初めての恋に歯止めが効いてないところは可愛らしいのだけど、やっている内容が過激なのでニヤニヤに苦笑が混じってしまう。
その与えられた安寧、いわばぬるま湯に違和感を覚えたシーモアの答えは……
なんでそう茨の道に行くかな。言動はSっぽいけど本質はMなんだろうな。悩むのが大好きとか言われてるし。でも、男のプライド、ルーミーとの立ち位置、怪物と生きるということなど、色々ひっくるめて悩んで出した答えが「一緒に笑う」なのが実に彼らしくて好きだ。清々しい気分。
今回はエセックス(車)の出番は少なく生死を懸けたような戦いはなく、これまでで一番平和な話だったが、愛の物語としてはいつも以上に濃かった。これまではルーミーの生きる意味を見つけたり、一緒にいるための努力をしたりと人間と怪物という枠組みの話だったが、晴れて恋人同士になった事でもっとパーソナルな、二人だけの愛の形を模索する話になっていたように思う。