いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「探偵はサウナで謎をととのえる」吉岡梅(富士見L文庫)

ある日、現役刑事・水田龍二(35)は義理の父・櫓竜太郎(60)のもとを訪ねた。竜太郎は元刑事で龍二の元上司でもあり、退職を機に私立探偵になりたいと言う。話を聞いた龍二は、竜太郎に解決済みの事件を推理させるも、解答は全て的外れなものばかり。
これは無理だと呆れる龍二だったが、義父に連れられ、ある場所へ向かうことに。そこはまさかの温泉施設のサウナで――!?
「謎は全てととのいました」
“サウナ”限定の安楽椅子探偵がおくる、最高にととのった事件解決物語登場!


裸のお爺ちゃんとおっさんが並ぶインパクトある表紙、扱う事件は本職の刑事が持ってくる殺人事件、謎を解くのは捜査一課の元刑事と現役警部補。これだけ堅物感と男臭さを兼ね備えておきながら、一番先に来る感想が“可愛い”なんだが。
父・竜太郎(元刑事、探偵)はお茶目で洒落の利いたお爺ちゃん。義理の息子・龍二(現役警部補)は家族思いの優しい青年。この二人が義理とは思えないほど仲良しで。連れ立ってサウナに行ったり、娘/嫁という共通の脅威相手に共闘したり、いい歳なのに先輩と舎弟感があるというか、「男はいつまでも子供」をいい意味で体現しているような二人の様子は可愛いと表現するのがぴったり。
あと特筆すべきはサウナ。ほとばしるサウナ愛がとにかく熱い。
効能に薀蓄に感想にと、一つ一つの説明が濃くて圧が凄い。それに加えて、初めは懐疑的だった龍二が段々とサウナにはまっていく様子で誘ってくる。作者、どれだけサウナ好きなんだ。
もう一つ熱いのが中部から東部にかけての静岡押し。
店名こそ出てこないが、地元民ならすぐわかる実在する入浴施設や飲食店が、少し特殊な観光案内かそれ系の雑誌かというくらいバンバン出て来る。中部在住としては東部は地名しか分からなかったが、中部の店は半分以上分かってほくそ笑んでしまった。
探偵もののミステリとしては感心するのもあれば、首をひねるのもある。トリックをどうやってサウナ関連に繋げるかに苦心した跡が見える力作だとは思うが、話によって出来不出来が激しい。
色々と予想外だったけど面白かった。サウナ4割、仲良しの父と義理の息子3割、静岡(中部から東部)2割、推理1割くらいの気持ちで楽しむのがいいかも。