いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「ひげを剃る。そして女子高生を拾う。 Each Stories」しめさば(角川スニーカー文庫)

「沙優ってやっぱり料理上手いよな」「あ、そ…そう?」目玉焼きの食べ方から、相手の知らなかった一面を垣間見る、吉田と沙優。「今日の私の服装……どうですか」好きな人と見に行く映画に、洋服にも気合が入る三島。「大人の休みって……暇ね……」久々に体調を崩した後藤のちょっと甘えたがりな一面。「早く大人になりたいな」休日の公園でブランコに揺られて呟くあさみ。「うん、行こう!遊園地!」いきなり吉田を誘って遊園地デートに繰り出す神田のほろ苦い恋の話。
家出JK・沙優とサラリーマン・吉田とのほんわか2人暮らしと、彼らを取り巻く「彼女たち」それぞれの日常の1ページ。


3巻までの購入特典等のショートショートに書き下ろし短編を加えた短編集。
ショートショート(1~13話)は登場人物たちの生活の一コマを切り取った何気ない日常の話。書き下ろし短編(14話~)は視点の人物の内面に触れる内容で基本切なく、でも心が少し温かくなる話。吉田と沙優以外の女性陣に焦点が当たることが多く、本編を補完する短編集になっている。
13話までのショートショートでは、吉田と沙優の生活の様子が見える話が良かった。卵の食べ方とか味噌汁の出汁の話とか。本編では意外と出てこない生活感が感じられて、しかもそこには穏やかな空気が流れていて、二人で暮らしていることを改めて実感できた。
脇役女性陣の心の内を知れる14話以降の短編では「三島ちゃん好き、後藤さん嫌い」の想いが強くなった。
三島ちゃんは本当にいい子だ。我儘な後輩を演じながらも、人の気持ちを慮ることを一番にする考え方といい、吉田がこんなにやらかしても気持が変わらない一途さといい、思わず応援したくなってしまうキャラクター。
ギャルのあさみも根は真面目で自分のことより沙優のことを考えちゃうような子だし、こうしてみると、後藤さんは本作で唯一の自分本位なキャラなんだな、と。自分本位なのは悪いとは思わないけど、他人のことばかり考える優しい人たちの中では一人だけズルく見える。そもそも中途半端なキープ状態で男を振り回している人に好意を持つのは無理だけど。
登場人物たちへの認識が深まったところで、次巻最終巻(のはず)。吉田と沙優はどんな未来をつかみ取るのだろうか。