いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「コミュ障探偵の地味すぎる事件簿」似鳥鶏(角川文庫)

念願の大学生活をスタートさせた藤村京はいわゆる“コミュ障”。新入生ガイダンス初日から誰にも話しかけられずに意気消沈していたところ、教室の片隅に高級傘の忘れ物を見つける。誰とも話していない藤村は、誰の連絡先も分からない。仕方なく一人で推理して持ち主に届けることを決意するが……(「論理の傘は差しても濡れる」)。人と話すことはもちろん、人と目を合わせることすら苦手な名探偵の愛すべき青春日常ミステリ!


大学生になったコミョ障男子が人間関係の構築に苦しみながら身の回りに起きた小さな謎を解き明かしていく日常ミステリ。
地の分の主人公の自分語り、コミュ障ゆえのネガティブ思考のくだりがめちゃくちゃ長くてくどい。でも面白い。うじうじと悩み続けるタイプの主人公は好きではないのだが、被害妄想もここまで突き抜けると笑いに変わって楽しく読めるんだな、と。
そこを楽しめてしまうとコミュ障の悩みの根源、暗黙のルールや場の空気なんかに対する悪態には激しく同意するところなので、共感できてしまうところの多い。服屋での葛藤とか、他人のいるカラオケの居心地の悪さとかわかるわー。そんな自己評価最低な彼の周りに集まってきた仲間たちは、当然の如く癖の強いメンバーで彼らの掛け合いが楽しい。
また、主人公のくどい独り語りがミステリとしての長所になっている。
ネガティブ理論を一つ一つ解説していくのと同じテンポで細かな事象を順序立て理論立てて考えていくので、推理の過程が追いやすくて読みやすい。でも、犯人の故意に偶然の出来事を重ねて真実を分かり難くしているは、ちょっとズルいと思う。
読み始めは苦手そうな主人公でうわっと思ったが、終わってみれば青春模様ありミステリ良しで面白かった。それに彼らの抱える悩みに考えさせられる面も。現代社会の闇とまではいかないが、世の大学生はこうやって多かれ少なかれコミュニケーションに悩んでいるんだろうな。まあ、それは大学生でなくても同じか。
あと、これだけは言いたい。藤村くん、大学入って早々に女の子の友達が二人もいる時点で君はコミュ障ではない。


単行本のタイトル『目を見て話せない』から、なぜか平凡で長いタイトルに変えてしまった謎。
本屋で『目を見て話せない』なら目に付いたら気になって手に取るけど、『コミュ障探偵の地味すぎる事件簿』では「また似たようなやつか」と見向きもしないと思う。