いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「僕たち、私たちは、『本気の勉強』がしたい。」庵田定夏(MF文庫J)

真面目すぎると言われる高校生、真嶋正太は夜が好きだ。田舎の小さな町で、身の丈にあった「普通」を過ごす日々。
でも夜はそんな自分でいなくてもいい、そう思っていた。ところがとある真夜中、こっそり侵入した「夜の教室」でいつも寝てばかりのクラスメイト・月森灯に出会ってから彼の人生は変わり始める。彼女曰く、勉強は全てを変えられるというのだ。勉強は世界に通じている。不可能を可能にする。こんな町からも外に出られる。
「もちろん、明日のテストでも簡単に満点をとれるわ」「えっ!?!?!?」
これは、夜から世界に挑む物語。真夜中×女子高生×勉強の新世代受験ストーリー、開幕!


夢追い人の父を反面教師に地道に分相応を心情にする高校生・真嶋正太が、睡眠障害の一種で夜にしか起きていられない天才少女・月森灯に夜の学校で出会ったことから始まる、受験勉強をテーマにした青春ストーリー。
真夜中の学校での逢瀬。少年の冒険心をくすぐりラブの気配も感じさせるシチュエーションなのに、やっていることはド健全な受験勉強というちょっとシュールな青春ラブコメ。そんな特殊な状況ながら、助けあったり衝突したりいい雰囲気になったり、上辺だけじゃない濃い友達関係を見せてくれて、ちゃんと青春してるのが面白い。
特に主人公の心情描写がいい。成績が上がっていく高揚と充足感、一度躓いた時の失望感とそこから生まれる疑心暗鬼、チャレンジしたい本心と苦労してきた母への申し訳なさ、色々な葛藤が渦巻いて激しく浮き沈みする多感な少年の心の内が丁寧に語られているところに強い青春感がある。
また、受験対策が意外とガチ。
受験に必要な能力を見定めてからの効率的な勉強方法に、試験問題に対する出題者の意図を読む考え方など、ただやらされている勉強、詰め込み式の勉強とは違う勉強方法が語られていて、それを読むだけでもためになる。
スローライフ」や「ざまぁ」など疲れた社会人向けの作品ばかりの昨今のラノベ作品の中で、中高生に薦められる、むしろ中高生にこそ読んで欲しいと思える作品。ラノベ業界全体に「こういうのでいいんだよこういうので」と言いたい。スローライフもざまぁもうんざりだ。