具合が悪い日、面倒な日直の仕事がある日、定期テストの日……。学校に行くのが億劫な日に呼び出される分身体(レプリカ)、それが私。自由に出歩くことはできない、オリジナルの身代わりとして働くのが使命の人生。
だったはずなのに、恋をしてしまったんだ。
好きになった彼に私のことを見分けてもらうために、髪型をハーフアップにした。学校をサボって、内緒で二人きりの遠足をした。そして、明日も、明後日も、その先も会う約束をした。名前も、体も、ぜんぶ借り物で、空っぽだったはずの私だけど、この恋心は、私だけのもの。
第29回電撃小説大賞の頂点に輝いた、とっても純粋で、ちょっぴり不思議な青春ラブストーリー。
第29回電撃小説大賞〈大賞〉受賞作
自分のコピーがいればしんどい日に学校に行かなくていいのに。そんな願望が現実になった青春SF(少し不思議)小説。
小学生の時、あるきっかけで生まれた自分そっくりな存在、模造品(レプリカ)。時々本人の身代わりとして呼び出され学校に行っていたレプリカが、不意に接点が出来たクラスメイトの少年と恋に落ちる物語。生み出した本人が、ズルくなっていく様子や募っていく不安などもちゃんと表現されているが、あくまで主役はレプリカの方。
そのレプリカの設定に曖昧な部分が多く、都合のいい舞台装置と感じてしまうところが多々あるが、それを補って余りある心理描写の丁寧さと、それにリンクする情景描写の美しさ。その描写力をもって、レプリカの持つ普通の高校生に比べると全然擦れてないピュアさと存在そのものの儚さが、初恋をより眩しく、でも切なく色付ける。
あとはかなり個人的なことだけど、静岡中部民にはあるあるで景色すぐ浮かぶ、安倍川周辺の描写のリアルさにニンマリしてしまう。あの川、平時はホントに一級河川?というくらい水量が無いのに、雨が降った時だけ凄い水量になるのよね。あとがきの、誇れるもの=「富士山とか……見える」←この感覚もわかるわー。中途半端に田舎でマジでなにもないから。
ライトノベルでこういう雰囲気のある、表現の丁寧さが光る作品は久しぶりに読んだ気がする。実に自分好みだが、派手さのない表現力の美しさで勝負するタイプの作品を電撃が大賞に選ぶのは意外だ。
電撃の大賞だから続きがあるのかな? 本作は綺麗にエンディングを迎えているので、やるとしたら同じ設定で違う主人公の物語になるのだろうか。
好きなタイプの作風で、おまけに地元民として応援したいので勝手な意見を言わせてもらえれば、
こういう描写が丁寧で独自の雰囲気を持った作家さんは、ラノベ業界では魔改造されて個性がなくなるか、早々に消えるかのどちらかなので、早めに出来れば一般文芸、せめてライト文芸に主戦場を移して、長く続けてもらいたい。