いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「86―エイティシックス― Ep.12 ─ホーリィ・ブルー・ブレット─」安里アサト(電撃文庫)

多大な犠牲を払った共和国民の避難作戦。その敗走はシンたち機動打撃群だけではなく、前線で指揮するレーナや作戦に参加できなかったフレデリカに大きな影響を及ぼしていた。生き抜くためには、愚かなままではいられない――彼らは『これから』のことを考え始める。
一方、連邦領内では戦況悪化によって政府上層部やエイティシックスへの不満が噴出。ついには一部の離反部隊が禁断の一手に縋ろうとして……。
Ep.12『ホーリィ・ブルー・ブレット』”青く貴く醜い弾丸が、静かに己の心臓を冒していることを、哀れな彼らは知ろうともしない。”


〈レギオン〉の大攻勢と共和国民避難作戦の部分的失敗による敗戦ムードで悲壮感漂う12巻。
思い悩んだ末に体調を崩し休暇を取るレーナ、珍しく仲間の前で弱音を吐くシン、塞ぎ込んだままのフレデリカ。と、とにかく空気が重い。数巻前は海を見に行く約束もそのうち果たせそうな勝勢ムードだったはずなのに、どうしてこうなった? しかも相変わらず人間の醜さを煮詰めたような内容という。
「手が届く範囲だけ助けられれば十分だ。目が届かない悲劇まで責任を感じて気に病む必要はない」
この当たり前のことを心から割り切れるか、納得できるか否か。11巻の共和国での作戦に続き、高潔な少年少女たちには酷なことを問うのがメインテーマ。
それを突きつけてきたのが、連邦内部の部隊の反乱。共和国の白豚共も大概だったがこいつらも……
決断を全て他人に委ねて、悪いことを全部誰かの所為にして、自分勝手な不満だけをぶちまける馬鹿どもの暴走。学ぶ機会がなかったのなら同情の余地はあるが、それすらも放棄している彼らには例え弱者であっても一ミリの同情も湧かない。どんなに悲惨な最期であっても、考えることを止めた者たちが迎えた必然の末路としか思わない。
前巻の共和国の白豚共に続き、なぜこんな奴らの為にエイティシックスたちが心を痛めなければならないのか。こんな奴らまで救わなくてならないのなら、いっそ滅んだ方がいいのではないかとまで思う。
そんな中、自分も厳しい立場にいるのに少年たちからトドメを奪い、馬鹿どもを甘ったれだと断罪してくれたイシュマエル大佐の漢気が格好よかった。今回ちゃんとした“大人”であってくれたのは貴方とどこぞの故中隊長殿だけだよ。
前回の余波でいつも以上に空気が重く、バカの暴走で作戦が難しくなっただけで〈レギオン〉の部隊は弱くて戦闘での緊張感や新たな強敵の登場の高揚感はなく、シンとレーナは一緒に居らず(←ここ最重要)、ただただ人間の醜さだけを見せつけられただけの読むのがしんどい巻だった。数巻前の軽い空気(ラブコメモード)に入るのはしばらく無理そうだなあ。