瞳を覗き込み過去を読み取る能力を持つ大学生・紙透窈一。退屈な大学生活を送る中、彼は野良猫の目を通じて、未来視の能力を持つ少女・柚葉美里と出会う。猫の瞳越しに過去の世界と会話が成立することに驚くのもつかの間、ミリが告げたのは衝撃的な『未来の話』だった。
「これから連続殺人事件が起きるの。だから探偵になって運命を変えて」
調査の過程で絆を深める二人。直接会いたいと願う窈一だったが……
「そっちの時間だと、わたしは、もう――」
死者からの手紙、大学の演劇部内で起こる連続殺人、ミリの言葉の真相──そして、嘘。過去と未来と現在、真実と虚構が猫の瞳を通じて交錯する新感覚ボーイミーツガール!
第29回電撃小説大賞《金賞》受賞作
相手の瞳から過去を読み取れる男子大学生と未来視の能力を持つ少女、ネコの瞳を通じて出会うSFボーイミーツガール。
タイムパラドックス要素有りのSFと、探偵ミステリではご法度な不思議要素を、小学館ライトノベル大賞でも大賞を獲った作者がどう料理してくれるのか、大変楽しみにしていたのだが……。
酒が入った寝惚けた頭で読んだら全く話の流れが理解できず、次の日素面でもう一度読んだがやっぱり理解できなかった。現実と演劇と瞳を通して見る未来の境目を曖昧にして不思議ワールドを作ろうとしている、その努力のようなものが何となく見えただけだった。あまりにも散らかっていて纏まりがなく、ページ配分もおかしい。パーツでも見ても、SFとしては前提条件が何だかおかしく、そうなるとミステリとしては当然破綻していて、半端なサイコホラー感だけが残るラストもボーイミーツガールとミスマッチ。SF+ミステリ+ボーイミーツガールだけでもすでに盛り過ぎな感があるのに、そこに演劇と愛憎劇とサイコホラー、おまけに現在の社会情勢(コロナ)までぶち込んだら、文庫一冊のページ数で足りるわけがない。
そして一番の問題は、
SFにしてもミステリにしてもなんにしても越えてはいけないライン、悪く言うと暗黙の了解、良く言えば作者と読者の信頼関係のライン。本作はそれを踏み超えてしまったから、真面目に考えて読んでいた読者がバカを見て、結末には何の感動もなく白けるだけの結果になってしまったのではないかと。
文章量と熱量からすると、ミステリでもSFでもなく演劇をメインに書きたかったような気がするんだよなあ。それなら普通に大学生が演劇に情熱を燃やす青春小説でよかったのに。
好きなものを全部乗せした結果、カオスになってしまった悪い意味で新人らしい作品。これ、本当にガガガ文庫の大賞作品と同じ作者なの? 完成度が全く別物で別人が書いたとしか思えない。