いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「七つの魔剣が支配する Side of Fire 煉獄の記」宇野朴人(電撃文庫)

オリバーたちが入学する五年前。魔法使いの家に生まれながら落ちこぼれと蔑まれた少年・ゴッドフレイの人生は、ひとつの報せによって一変する。失敗だらけの受験行脚で得たひとつきりの合格通知。それは「魔法使いの地獄」と称される名門キンバリー魔法学校のものだった。
初歩の呪文ひとつ満足にこなせない状態で入学したゴッドフレイ。当然のように授業では爪はじきにされ、他の生徒たちからは笑いものにされる日々が続く。が、唯一の癒しである友人カルロスの窮地に直面したその瞬間から、彼の状況は大きく変わり始める――。
後に生徒最強と謳われ「煉獄」の異名で呼ばれる男。これは若き日の彼とその仲間たちがキンバリーで駆けずり回った灼熱の日々、青春の記録である――。


「煉獄」学生統括ゴッドフレイ。オリバー達にとってキンバリーの数少ない良心だった先輩の下級生時代を描くスピンオフ。
環境は劣悪、悪意が幾重にも渦巻くキンバリーで、己の信念を貫く熱血漢主人公が繰り広げる、清く正しいヒーロー物語だった。
仲間を増やして手の届く人を助ける。やっていることは本編主人公オリバーと大きくは変わらないのだけど、オリバーは根本にあるものがドス黒く、彼の正義は善ではないので、雰囲気が全然違う。オリバーはダークヒーロー、自分の中の正義が真っすぐ善なゴッドフレイはお手本のような少年漫画の主人公。あのキンバリーでの話でこんなに爽やかな気分になれるなんて思いもよらなかった。
また、生徒会メンバーの絆の原点が知れたのが良かった。
次期統括(ティム)の性癖はこんなところから生まれてしまったのか。ゴッドフレイ、罪な男だぜ。
それと3巻の主役たるオフィーリアとカルロスとゴッドフレイの関係性。あの時カルロスを見送ったゴッドフレイの心中を察すると涙が。というか、3巻はこれを読んでからが正規ルートだろう。あの巻単体だと上級生の物語には置いてけぼり感があったもの。
地獄のキンバリーを本編とは違う雰囲気で楽しめて、サブキャラたちの掘り下げも十分なパーフェクトなスピンオフ。面白かった。