いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「お探し物は図書室まで」青山美智子 (ポプラ文庫)

「お探し物は、本ですか? 仕事ですか? 人生ですか?」
仕事や人生に行き詰まりを感じている5人が訪れた、町の小さな図書室。彼らの背中を、不愛想だけど聞き上手な司書さんが、思いもよらない本のセレクトと可愛い付録で、後押しします。自分が本当に「探している物」に気がつき、明日への活力が満ちていく物語。2021年本屋大賞第2位。


自分でも良くないとは自覚しながら、人生に夢が目標がなく日々を漫然と生きている人。逆にやりたいことや夢はあるのに、忙しない日々に追われそれらを諦め気味な人。定年退職後、やることがなく趣味もなく社会に見放さされたように感じている男性。そんな視野狭窄に陥っている人たちが、ふとしたきっかけで寄った町の図書室で思いがけない本を薦められ、そこから人生が好転していくハートフルストーリー。各話の登場人物たちが他の話にちらっと出てきて、あの時の裏話やその後の状況が知れたりする、作者得意のクロスオーバーは今作も健在。
町の図書室のレファレンスの主・小町さゆり。白熊を思わせる巨体に頭にはお団子とかんざし。羊毛フェルトを一心不乱に針で刺す手元。それでいて薦める本は『ぐりとぐら』他実在する本たち。異世界に紛れ込んだようなファンタジー感を出しながら、突如として現実に引き戻されるその緩急とギャップが癖になる。何故だか引き込まれる。
そんな彼女が薦める本は、訪れた利用者の悩みに対して答えをくれるわけじゃない、ただきっかけをくれるだけというというのがミソ。
本人に理想があるから上手くいっていない今を変えるに方法が見つかる。このままじゃ駄目だと自覚していることや、完全に諦めていないこと。そのこと自体がすでに自ら新たな一歩を踏み出していると気付かさせてくれる。
ものの見方ひとつで世界が変わる瞬間が5つも味わえる素敵な物語だった。
「一度立ち止まって周りを見て見なさい」言葉にすれば普通で在り来たりな指摘を、愛のある本のチョイスと不思議なおまけと、時には少し厳しい言葉で示してくれるさゆりさんに是非とも会ってみたい。