いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「物語の種」有川ひろ(幻冬舎)

読めば心が躍り出す。
ほっこり&胸キュン全十篇の物語!


読者から「物語の種」(エピソードでも写真でもフレーズでもO.K.)を募集して、その中から選ばれた物語の種を著者が広げて小説にした十編の短編集。
その内くっ付きそうな若者二人が出て来るほのかな甘さを感じられる話。熟年夫婦が他人には分からない絆を見せる話。上司と部下の意外な一面を見て見る目が変わる話。人間関係の機微の妙が楽しめる久しぶりでもやっぱり有川ひろな短編集だった。
その中で印象に残るのが、オタクたちが「推し活」を如何に楽しんでいるかを語る話が多いこと。全体の半分はそんな感じ。猫とか漫画のキャラとか宝塚とか宝塚とか。
「コロナ禍の自粛の中で家に居ながら楽しめるエンタメを」というコンセプトの短編集なので、インドアが得意なオタクが楽しめるスタイルになるのは、ある意味必然なのかもしれない。家でじっとしていられない人や体を動かさないとストレスが発散されない人には、読書という選択肢はないもの。
宝塚の話題が多いのは作者が今、沼っているからだそうで。自分の“好き”を語る時が一番楽しい、大変よくわかります。
全十編で個人的に好みなのは、
傍から見るとハラハラするような言い合いでも、それが二人の距離感でじゃれ合いである。そんな確かな夫婦の形が見える『胡瓜と白菜、柚子を一添え』と、見方/感じ方ひとつでささくれだった気分が一転するエピソードを多人数視点で重ね、ラストは小さな楽しみを見知らぬ誰かと共有できるジューススタンドで締める『ゴールデンパイナップル』の二編。
ネタはいくらでもあって、本作で知名度が上がったらさらに膨らみそうな企画なので、次も期待できそうで楽しみ。