いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「レーエンデ国物語」多崎礼(講談社)

聖イジョルニ帝国フェデル城。家に縛られてきた貴族の娘・ユリアは、英雄の父と旅に出る。呪われた地・レーエンデで出会ったのは、琥珀の瞳を持つ寡黙な射手・トリスタンだった。
空を舞う泡虫、乳白色に天へ伸びる古代樹、湖に建つ孤島城。その数々に魅了されたユリアは、はじめての友達、はじめての仕事、はじめての恋を経て、やがてレーエンデ全土の争乱に巻き込まれていく。


これだけの没入感を味わえるファンタジーに久しぶりに出会った。読み始めるとすぐに世界に引き込まれ、約500ページのボリュームを全く感じずに気付いたら読み終わっていた。
まず魅せられるのが世界観。
国内での主導権争いが激しい帝国の中央に位置しながら、険しい山脈と深い森、森がもたらす不治の病・銀呪病で外の人間を拒む土地レーエンデ。しかしその森は見るものを引き付けてやまない銀色に輝く幻想的な森。と、舞台となるレーエンデの森が丁寧で美しい筆致で描かれ、思わずため息が出てしまうくらいに美しい情景が浮かんでくる。
また、厳しい世界、自然の中で生きる人たちの力強さにまた魅かれる。
メインで語られるのは三人。
政略結婚から逃げて来た貴族の娘・ユリア。その父で英雄と呼ばれながら致命的な障害で一線を退かざるを得なかったヘクトル。レーエンデの民でありながら混血ゆえに迫害されてきたトリスタン。それぞれに後悔と後ろめたさを抱えながら、共に暮らす中で信頼と愛情を育んでいく。それが争乱が激しくなる後半に花開く。
時代の荒波に呑み込まれ多くの窮地を迎えながら、自らの夢と信念への強い意志、そして培ってきた信頼と愛情で道を切り開いていく姿に、どのシーンでも感動せずにはいられない。大きな転機には美しくも厳しい森の情景描写が挿しこまれ心情を補完してくるので、そこでまた心をグッと持っていかれる。
美しく力強い、胸がいっぱいになる物語だった。最高の読書時間だった。
終章が史実だけ並べられているのは、そこは別の人物の別の物語として2巻以降に語られるということなのだろう。その第二巻は8月予定。待ち遠しい。



と、内容は本当に最高だったのだけど、ただ一つ欠点がある。
それは帯がべたべたすること。外さないと持ち難くてしょうがない。講談社さん、次巻から帯の材質だけはもう少し考えていただけると助かります。