いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「りゅうおうのおしごと!18」白鳥士郎(GA文庫)

「私の中で将棋は終わったわ」
スーパーコンピューター《淡路》を使って将棋の解に至ったと嘯く天衣は、その言葉を証明するかのように着々と勢力(タイトル)を拡大していく。
《淡路》との対局を繰り返した八一もまた、親友との初めてのタイトル戦に寂しさを感じていた。
「遅すぎたよ……歩夢」
最強AIが見せた未来は本物か、それとも幻か? 雛鶴あいは自分の信じる道を進むため、その未来を否定する。賭け金は――自分の未来。
「……わかった。天ちゃんに負けたら、わたしは将棋を捨てる」
あいと天衣。八一と歩夢。競い合うことを定められた光と闇の好敵手(ライバル)が遂に盤を挟む、再戦の18巻!!


最強AIに見せられた未来の将棋の姿に絶望してしまった八一と達観してしまった天衣。そんな二人が迎える大一番の様子を描く18巻。
「う~ん?」と思いながら読んで、あとがきで腑に落ちた。作者にも「AI」に振り回されている自覚があったんだなと。
AI技術がルールを確立する前に成長しすぎてしまって右往左往している現代社会の最たる例を将棋界で示しているような内容で、そういう観点では非常に興味深い内容ではあったのだけど、それが物語としてライトノベルとして面白いかと言われるとNOとしか言えない。
このシリーズには人と人がそれぞれに抱える強い想いがぶつかり合う「熱い」バトルを期待しているのに、対戦相手の片方がAIの方ばかり見て相手の方を向いていないのだから熱い戦いになり様がない。
今回あった二つの大きな対局は、そんなAIの方ばかり見てちっとも目の前の対戦相手を見ない八一と天衣を、親友でありライバルである歩夢が八一を、唯一の同世代の友達で姉弟子のあいが天衣を、「こっち向いて」と両頬を掴んで無理矢理正面を向かせたような、そんな悲壮感や悲哀を感じる対局だった。
同時に、そうすることでおかしな方向に進み始めてしまった物語を正道に戻そうと四苦八苦している、作者の産みの苦しみを感じる一冊だった。
本編はあと2巻で完結だそうで。折角軌道修正できたと思ったらあいに異変が!?