いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「Unnamed Memory -after the end- III」古宮九時(電撃の新文芸)

「だからどうか、王になって。私の民を救って」
呪具の一部であった本を焼いてから約百年後、オスカーとティナーシャは東の大陸にわたり、残る呪具の捜索にあたっていた。未だ情勢が安定しない地域も多い中、彼らは幼い兄弟を拾う。
兄弟は行方不明になった父と姉を探しており、謎の失踪を遂げた家族の足取りの先には、とある「幸福な街」が生まれていた――。
逸脱者の戦いと運命が、今再び歴史の上に現れる!


人の生を逸脱し課せられた使命、世界に残る人の世に害なす呪具の捜索と破壊を果たすべく、世界の裏側で奔走する仲良し夫妻の物語。舞台がいつもの魔法大陸から東の大陸へ移り、新事実と新展開を迎える第3巻。今回は大きく分けて『幸福な街』編と『Void』編の二つの物語で構成されている。
まずは『幸福な街』編。呪具の捜索中に保護した兄弟との疑似的な家族になる物語。
夫婦がちゃんと夫婦として揃ってスタートなのは-after the end-になって以来初なのでは? 1巻の初めは一緒に居てもティナーシャが生まれ変わったばかりで、その後は大体どちらかがどちらかを探す話ところから始まってるし。
二人が人の親、かどうかは何とも言えないが、ちゃんと子を導く大人で良き師であることになんだかほっこり。それに二人が揃っている安心感もあって、穏やかな気持ちで読み進められる。
しかし、そういう時こそ落とし穴を用意しているのがこのシリーズ。ここで出て来るのか呪具、そして外部者。その本題忘れかけてたよ。しかも強烈に不安を煽る一言まで残していくし。
続いての『Void』編がその不安を助長する。
なんとこの話、二人の名前が全く出てこない。性格と仮の姿で二人が傍にいることは読者にはすぐわかる構図にはなっているのだけど、片方が認識していない状態で話が進むので、もどかしさと共に『幸福な街』編ラストで示唆された長い孤独を感じさせてきて「うわー」ってなる。
何よりオスカーとティナーシャの軽口と睦言が好きなのに、それが楽しめないのがとても寂しい。前半は楽しめていただけに、よりそう感じるのかも。
この先、こうして離れている時間の方が長くなってしまうのだろうか。文字通りに世界を敵に回してもお互いを見つけ出しそうではある反面、ティナーシャのメンタル持つのかという懸念もあり。それでもこの二人ならきっと……。