いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「甘党男子はあまくない ~おとなりさんとのおかしな関係~」織島かのこ(メディアワークス文庫)

甘党男子はあまくない ~おとなりさんとのおかしな関係~ (メディアワークス文庫)

ごく平凡なOL・胡桃のストレス発散方法はお菓子を作ること。ある日失恋のショックで大量に焼き上げたお菓子をお隣さんに差し入れをすることに。口も態度も悪いお隣さんだったが、胡桃の作ったお菓子を大絶賛。どうやら彼は甘いものをこよなく愛する甘党小説家だったようで?
それ以降、胡桃はお菓子を作るたびにお隣さんに差し入れをするように。お菓子代として話を聞いてもらうことで失恋の痛みを忘れていき――。
不器用な恋模様に胸キュン必至の、”おかしな”恋の物語。

第8回カクヨムWeb小説コンテストライト文芸部門《大賞》受賞作


仕事のストレスをお菓子作りにぶつけるOLと甘党な小説家によるお隣さんラブコメ
とても良いキャラクター小説。
主人公の糀谷胡桃は、父に仕込まれた焼き菓子の腕はプロ級(本人に自覚無し)なのに、本職の事務仕事と人間関係は苦手で自己評価が低く、男運は最悪なOL。
日々の料理が気分転換になっている自分としては、お菓子作りがストレス発散な彼女の行動は共感しやすく、初めからスッと物語に入っていけたのが良かった。それに自分で言うほど能力は低くなく、理不尽に負けない我慢強さもあって、応援したくなるタイプの女の子。そもそも男運はともかく、分量・時間・温度の管理がシビアなお菓子をここまで無駄なくミスなく作れる人が仕事が出来ないはずがないだよなあ。
また、中盤と読み終わりで理由は違うのに全く同じ感想が出てくる珍しいキャラでもあった。第五話前半まで=同僚に恵まれなさすぎ。転職すればいいのに → 読み終わり時=この子何でOLなんてしているんだろう。早くパティシエに転職すればいいのに
お相手の佐久間凌は、万人受けはしないが一部にコアなファンがいるタイプの作家で、極度の甘党な28歳男にして正統派ツンデレな小説家。
ストレートな正論という毒と不器用な優しさを交互に繰り出して緩急をつけてくる、青年男性なのに「かわいいなこいつ」と思えてしまう絶妙なバランスのツンデレ
また、彼の食レポと幸せそうな食べ姿のおかげで胡桃のお菓子がより美味しそうに感じられる、甘味テロ小説としての最重要キャラでもある。男のくせに甘党だと言われることを怒る前に、担当編集にツンデレだと思われていることを怒った方がいいと思うぞw 
もう一人重要キャラだったのがその担当編集の筑波嶺大和。
恋愛脳の鑑賞ガチ勢で、実際に隣に居たらウザいことこの上ないタイプだが、これが随所に良いツッコミ良いフォローを見せてくれる。
自己評価最低女子と素直になれないツンデレ男子というまるで進展の望めない組み合わせなのに、こいつか居れば大丈夫。変に拗れても上手いこと軌道修正してくれそうな、変な安心感がある。
設定やストーリーには多々強引さが感じられても、キャラクターが生きていれば万事O.K.と思わせてくれる、恋愛未満な関係の男女のかわいい姿が拝める一冊だった。