いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「七つの魔剣が支配する XIII」宇野朴人(電撃文庫)

七つの魔剣が支配するXIII (電撃文庫)

呪者として目覚めたガイは、力の制御が可能となるまで一時的に剣花団を離れることになり、メンバーに動揺が走る。しかも、オリバーたちは上級生として研究室選びの時期を迎え、各々が自分の将来を考えなければならない。徐々に、しかし確実に、彼らの関係性には変化が起こっていた。そう――大人に近づき、魔に近づく彼らは、かつてのままではいられないのだから。さらに、新任教師ファーカーの不気味なまでの優しさや、この学校では異常とも言える生徒想いな振る舞いは、一部のキンバリー生たちの考え方までも変えていく。一方で、謎に包まれたその真意を確かめるために、オリバーは自ら魔人へと接近し……。


入学当時から仲の良い仲間であっても目標や適正、個性は人それぞれ。成長と共に歩む道が分かられていくのは必然。五年生を前にした研究室選びとガイの受けた呪いによって、望まなくてもその岐路に立たされた剣花団のメンバーの心の葛藤を描く13巻。
これまでの心地いい関係のままではいられない状況と、新しい人間関係。追い打ちをかけるように進路の選択による別れの気配。急激な生活環境の変化と人間関係の変化に心を惑わせ悩む若者たちの物語。死と隣り合わせのファンタジーなのに正しく青春群像劇だった。テーマだけなら高校生大学生主役の現代の青春ものでそのまま使えそうなくらい。
しかし、そこは魔法使いのキンバリーの若者たち。えっっっからンアッー!まであって「大丈夫かこれ?」と思ってしまうくらい、青春というには暴力的で肉欲的なやり取りが繰り広げられるのだが。むしろその分、建前を取っ払った直情的で強烈な本心のぶつかり合いが読めた。
そんな中、最も揺れ動いたのが意外にも主人公オリバー。これまで剣花団ではリーダーシップをとるお兄さん的存在で、裏でもいつもギリギリながらもしっかり目的を成し遂げてきた組織の宗主。そんな彼がいつもとは真逆な弱った姿を何度となく晒している。なるほど、剣花団のメンバーはこれを感じ取ってやられちゃったわけなんだな。
というか、全員オリバーのこと好きすぎだろう。3人は知っていたけど、あとの2人までこんな状態とは。指導力と面倒見とカリスマとギャップ。人たらし力だけなら無双系主人公だわ。
そんな風に若者たちが青春している裏で、数々の事実が明らかになっていたことも見逃せない。外の大人たちの画策と、それで送り込まれた大賢者本人の思惑。校内の教師たちの本心。人族に虐げられた来た亜人たちの叛旗の兆し。これらはオリバーの目的にとって追い風なのか向かい風なのか。まあこの作者だから向かい風だとは思っているが。
次回から五年生編。戦争が始まるそうですよ。