二ヵ月後にオリンピック開催を控えた、全日本フィギュアスケート選手権。この大会には日本女子フィギュアの歴史を変える選手二人が揃った。卓越したセンスと表現力を持つ完璧主義者・京本瑠璃。圧倒的身体能力でジャンプの限界を超越する雛森ひばり。波乱続きの競技人生を送る彼女たちをこの舞台に導いたのは、それぞれのパートナーだった。
片や、運命が出会わせた師弟。
片や、幼馴染みの選手同士。
強く結びついた女性二人×二組がひとつの五輪出場権をかけて対峙する。
2029年12月21-22日、フィギュアスケート全日本選手権。そこにオリンピックの最後の一席を争う二人の天才少女がいた。
完璧主義者でそれを体現する才能がある天才・京本瑠璃は振付師でありコーチであり親代わりでもある元スケーター江藤朋香の視点で、フィジカルモンスターな天才・雛森ひばりは親友であり元ライバルでもある新米コーチの滝川泉美の視点で、二組の選手とコーチの人生を賭けた勝負の行方とそこまで至る回想が語られる、フィギュアスケートの世界を舞台とした人間ドラマ。
フィギュアスケートの事をよく知らなくても、競技にかける情熱と競技本番の緊張感を我が事のように味わえる、手に汗握る一冊だった。
全日本選手権当日の様子を描きながら、その合間合間に天才少女の辿ってきた人生が回想として語られるストーリーラインなのだけど、その視点となる二人のコーチがそれぞれの選手に対して、前向きな感情ばかりではなく複雑な感情を抱いているのがドラマを厚く熱くしていた。
天才の二人は方向性は違うがどちらも問題児。コーチの二人は自分の才能の無さに打ちひしがれてきた元選手。
挫折を味わってきた元選手だからこそ感じる天賦の才への羨望や嫉妬、傲慢だったり破天荒だったり天才少女らしい態度を憎々しく思う感情。そんなマイナス面が多い天才少女たちに対して、それでもその才能に魅入られていく、支えたいと思わせられていく二人のコーチの様子に彼女たちの魅力が強調されていく。
また、どちらの天才少女も理不尽な理由で競技から離れざるを得ない時期があるのも演出がズルい。こんな大人の身勝手で振り回される子供を見れば「ガンバレ」と思わずにはいられない。
そしてもう一つ大事な要素が、全編通して最も熱く語られてた「悔しい」という感情。何度挫折しても「悔しい」を原動力に立ち上がり、不可能を可能にしていく姿に魅せられ胸が熱くなる。どれだけ見た目は華やかな世界でも、勝負の世界なのだと思い知らされる。
そんな風に、思い入れがどんどん強くなっていったところでの競技本番。
どちらにも強く感情移入しているばかりにもの凄い緊張感が押し寄せ、どちらにも負けてほしくないという想いが爆発する。先が早く読みたいのに結末は知りたくない、最後はそんな複雑な気持ちで読み終えた。
最高に面白かった。でもしんどかった。こんなの当事者だったら心臓持たない。