いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「赤と青とエスキース」青山美智子(PHP文芸文庫)

赤と青とエスキース (PHP文芸文庫)

メルボルンに留学中の女子大生・レイは、現地に住む日系人・ブーと恋に落ちる。彼らは「期間限定の恋人」として付き合い始めるが……(「金魚とカワセミ」)。額縁工房に勤める空知は、仕事を淡々とこなす毎日に迷いを感じていた。そんな時、「エスキース」というタイトルの絵に出会い……(「東京タワーとアーツセンター」)。
一枚の絵画をめぐる、五つの愛の物語。彼らの想いが繋がる時、奇跡のような真実が現れる――。
著者新境地の傑作連作短編。


メルボルンの貧乏な若手画家が描いた一枚の水彩画を巡る、オーストラリアと日本を舞台にした連作短編。
これは感想が大変に難しい。ネタバレしたら感動が半減どころか、7割8割減になってしまいそうだから。
作者定番の登場人物で繋がる連作短編で、舞台はデビュー作と同じオーストラリアと日本。登場人物が少しずつ重なって、ぐるっと回ってラストは初めのペアに戻ってくるだろうなと思いながら読んでいたら、四章ラストとエピローグにそれ以上の仕掛けが待っていた。これは紛れまなく運命の出会いの話だ。だけど……おっと、ネタバレはNGだ。
最後まで読んでこその作品だが、一つ一つの短編にも酸いと甘いが噛み締められる人間模様が描かれている。
その話の主人公に夢や希望とはかけ離れた現実の厳しさやままならなさを十分に語らせておいて、ラストの小さな幸せでグッと引き上げてくる。その小さな幸せの見せ方が見事。それと人間上手くいってない時には悪いところばかり見えるもの、一度落ち着いて物事をや相手のことをよく見てみようというメッセージが感じられる。
読み終わると心が少し軽く温かくなる話なのはいつもの青山作品。終いの仕掛けの感動はいつも以上。作者の他作品が好きな人なら確実にハマる一冊。