いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「冷たい恋と雪の密室」綾崎隼(ポプラ社)

冷たい恋と雪の密室 (一般書)

センター試験二日前、歴史に残る最強寒波が新潟県全域を襲った。放課後、受験勉強を終えた三条市の高校三年生、石神博人は大雪の中、最寄りの三条駅に着いたが大混雑で電車は全然来ない。自宅のある帯織駅までは二駅とはいえ徒歩での帰宅は難しい。十八時過ぎ、やっと来た電車に乗り込むと、偶然地元の友人、櫻井静時と遭遇。久々の再会を喜んでいると、彼のスマホに博人が想いを寄せる幼馴染み、三宅千春からメッセージが届いた。密かに動揺する博人だったが、同じ電車に千春も乗っていて……?
豪雪で密室と化した電車の中で熱い想いが動き出すーー!


幼馴染みの三角関係。言葉にすれば単純で、どこにでもありそうなすれ違いの恋物語
それが、男の子二人の親友と呼べる間柄ながら片方に負い目のある関係性と、女の子一人が芯が強い、いや強すぎる性格だったばかりに、心に負った幾つもの裂傷から次々と血が滲み出す、とても残酷で苦い青春群像劇になっていた。
幼馴染み三人の視点で順に物語が紡がれるのだが、すでに振られているのに好きな子の為人を訥々と語る第一部も、三人の関係を変質させた女子の陰湿なイジメが語られる第二部も、男の子二人の想いを知ってから読むあまり一途で頑なな女の子の想いも、どれも痛く切ない。そんな痛烈に青春を感じさせてくる物語だった。
ただ、腑に落ちない点が一つ。
帯でどんでん返しを予告して恋愛ミステリを謳っているのだが、その要素がほぼない事。
もう一人の女性の登場は叙述トリック的ではあったけれど、話が核心に行く前には気付けるようになっているし、彼女の存在が三角関係の物語に何か影響を与えるわけでもない。どんな意図があって彼女を出して当初は正体を隠したのか、まるでわからない。「恋愛ミステリ」と銘打って宣伝してしまったから後付けしたのではないかと邪推してしまう。
それでも「青春」という観点で読むととても濃い作品だった。もっと甘さや爽やかさを感じられる方が好みではあるけれど、これも一つの青春の形。