いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「古典確率では説明できない双子の相関やそれに関わる現象」東堂杏子(メディアワークス文庫)

古典確率では説明できない双子の相関やそれに関わる現象 (メディアワークス文庫)

二十も離れた弟の誕生――それがすべての始まりだった。
斉藤勇魚と斉藤真魚。男女の双生児でともに二十歳の大学生。二人の人生は、年の離れた弟の誕生で一変した。
広島の大学に通う勇魚は親友に恋人を奪われ荒んだ日々を送り、北九州の実家で暮らす真魚も最愛の人に突然捨てられ世界に絶望する毎日。
そして二人は、奇しくもそれぞれの隣人との奇妙な交流に救いを求めていく……。
やがて気付いてしまった家族の真実。親子、恋人、親友――すべての日常が絶望と綯い交ぜになった双子の青春の行き着く先とは?

第31回電撃小説大賞、《メディアワークス文庫賞》と《川原礫賞》のW受賞作


20も年の離れた弟が生まれることとなった男女の双子に起きる人生の悲喜交々。子供とは言えないけれど、大人にもなり切れていない大学生の日常を切り取った青春ストーリー。
恋人に裏切られた兄と最愛の人に捨てられた妹というスタートで、自分の周囲を見ればまるで上手くいかない人間関係。実家の方に目を向ければ、弁護士一族の親族のプレッシャーにクソみたいな親戚、自由は認めてくれるけど頼りない父と何を考えているのかよくわからない母。
大人の狡さや他人の身勝手さに振り回され、世間や他人に対する怒りや悲しみ、何事も上手くいかないもどかしさ。そんな日々積もっていく行き場のない鬱憤や不安感を、何気ない日常の中で鮮やかに描写するなんとも形容しがたい感覚の物語だった。
性の描写が濃くて妙に生々しかったり、ある親戚の行いが普通に犯罪で眉を顰めたり、読み心地が良いとは言えないのに、何故か惹かれて最後までスルッと読めてしまう不思議な魅力がある。
一つ、不満というか肩透かしだった点を上げると、タイトルから連想される双子ならでの不思議現象は特になかったこと。
感情はシンクロしているようには描かれているのだけど、良い時と悪い時を交互に書いたらそりゃそうなるよね、としか。
むしろ、そういう不思議な事象や出来事はなく、本当に大学生の日常を切り取っただけの物語で、これだけ読ませる作品になっていることが賞を取った理由なのだろう。
特別なことは何もないのに読んだ感触は初体験、新鮮で不思議な読書時間でした。