いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「偽の恋人だったクラスの美少女たちが、本当に俺のことを好きになっていた件」友橋かめつ(ファミ通文庫)

「俺には彼女がいるんだ!」義妹から日々結婚を迫られることに辟易としていた俺は、咄嗟にそんな嘘をついてしまう。早速俺はアリバイ作りのために、リア充の桜井、完璧主義の千本木、そして幼馴染みの蛍に偽の恋人関係を結んで欲しいと頼み込むも全員に断られてしまった……はずが、三人とも恋人になってる!? その後恋人同士の"俺"争奪戦も始まり、さらには俺の異変に気づいた義妹が監視を強化して……!? 偽の恋人たちとの、間違いだらけラブコメ、開幕!


主人公が義妹の猛烈なアプローチを交わすべく、3人の少女に恋人のフリを頼むことから始まるハーレムラブコメディ。
年中発情ストーカーな義妹のインパクトが強烈。……特に他に言うことがない(^^;
劇物な義妹のキャラクターは確かに目立った存在だったのだが、彼女のおかげで小ネタは下寄りになり、ヒロインである三人の偽彼女たちの印象が薄くなりと完全に諸刃の剣。マイナス面の方が大きい。ヒロインの一人に女王様気質のドS少女がいたのに、この義妹の前では霞んでしまう。
それと、ハーレムものなのに主人公のモテる理由がはっきりしていないし(優しい良い子ではあるとは思うけど)、ヒロインたちに彼を好きになる強いエピソードがあるわけでもないので、誰にも感情移入できないのが辛いところ。惚れている理由が幼馴染み以外は納得できる要素がないもの。
ブコメとしても甘さも可もなく不可もなくで、これといって琴線に触れることのない作品だった。

「好感度が見えるようになったんだが、ヒロインがカンストしている件」小牧亮介 (角川スニーカー文庫)

ピンクの蚊に刺され、“他人の自分に対する好感度”が見えるようになった高校生・桐崎冬馬。知り合いは30、友達は70が普通なのに、美少女四天王・九条桃華の数値は100と最初からカンスト。「友達になってほしい」という桃華とメッセージのやりとりや放課後デートを重ねる。冬馬が何か失敗しても、彼女を待たせても常に好感度は安定の100。真面目で照れ屋な彼女に惹かれていく冬馬だったが、桃華の親友であるツンデレ女子・如月結衣の数値が-50、さらにモテ女子雪村希の数値は-100! とはいえ結衣とは桃華の話題で盛り上がり、遠足でぼっちになった希と過ごしたりして、彼女たちの好感度も爆上がりに!?


なんだこれ、身悶えしそう!
好感度の可視化というので、それを利用して恋愛強者に成り上がったり、逆にそれに振り回されて失敗したりする話を想像していたら、全く予想外のものが出てきた。
初めて恋を知ったわんぱく小僧みたいなピュアな主人公と、引っ込み思案で大人しいヒロインによる、初心×初心なラブストーリー。きっかけのエピソードがしっかりしていて感情移入しやすく、二人とも初心者な感じが最後まで続くので、初恋の甘酸っぱさと、傍から見るむず痒さを最初から最後まで味わえる一冊になっている。
ただ一つ気になるのは、好感度が見える設定の影の薄さ。
ヒロインはカンストから数値変動しないので、見える意味はあまりない。他のキャラは変動するが、ちょっと空気読むのが苦手で間違いなく良い奴なこの主人公なら、好感度が見えようが見えなかろうが全く同じ行動をしただろうと思われる。主人公の行動に影響しない設定は果たして必要なのだろうか?……まあ、いいか。二人が可愛かったから。
設定を使えているとは言い難いし、文章もどこかたどたどしいけれど、それを含めて「初心(うぶ)」を楽しめる作品だった。面白かった。

「魔弾の王と凍漣の雪姫2」川口士(ダッシュエックス文庫)

ブリューヌ、ジスタート連合軍によるムオジネル侵攻は、失敗に終わった。アルサスに帰還したティグルだが、国王からの密命を受けてジスタートへ向かう。
愛するミラとの再会を無事に果たし、オルミュッツを訪れたティグルを、新たな出会いが待ち受けていた。ミラと険悪な間柄で知られる戦姫“銀閃の風姫”エレオノーラが来ていたのだ。
一方そのころ、北西の王国アスヴァールは、ジスタートに野心の牙を向けようとしていた。そこには、戦による混乱と流血を望むブリューヌのガヌロン公爵と、そして魔物の影があった。
黒弓と竜具に導かれるティグルとミラの運命は。新たな魔物との戦いが幕を開ける!!


ティグルはティグルだった。安心した。
1巻では前作『魔弾の王と戦姫』と少し雰囲気が違って驚いたのだけど、エレンやソフィーが出てきたら、早速自慢のたらし力を発揮してくれた。よっ、未来のハーレム王!
本作でメインヒロインになったミラには悪いけど、やっぱりエレンの方が好きだな。戦姫として器の大きさと、女の子の顔になった時のギャップが魅力。ミラの独占欲の強さからくるヤキモチも可愛いんだけどね。
内容の方は、1巻が導入部ならば、2巻は大きく風呂敷を広げる巻だった。
前作とは逆で、対人間の戦争よりも対魔物のバトルファンジーの方に比重が置かれていて、戦姫たちとの共闘は序盤から熱が入っている。出会う戦姫が増えるほど苛烈になっていきそう。
それと、今回はとにかく視点が多い。
ティグルやミラはもちろん、前回一緒に戦ったロランや敵だったダーマ―ド。前作でも敵のテナルディエやガヌロンに加え、前作では名前くらいしか出てこなかった国まで出張ってきて、『魔弾の王と戦姫』よりもスケールが大きくなりそうな予感がする。
前作とは違う様相を見せてきた世界で、今度はティグルがどういう経路で王になるのか、続きが楽しみ。

2月の読書メーター

 読んだ本の数:18
読んだページ数:5704




今月のベスト3
「子守り男子の日向くんは帰宅が早い。」双葉三葉(角川スニーカー文庫


りゅうおうのおしごと!10」白鳥士郎GA文庫


「君死にたもう流星群3」松山剛(MF文庫J

「君死にたもう流星群3」松山剛(MF文庫J)

人工衛星テロ『大流星群』で命を落とした天野河星乃。平野大地は彼女を救うため、高校時代にタイムリープを果たす。そこで彼はクラスメートの少女・宇野宙海がアイドルを夢見ていることを偶然に知ってしまう。涼介や伊万里の姿から、夢を追う人生の素晴らしさを学んだ大地。しかし、未来で見てきた25歳の宇野は、夢破れて挫折していた――。失敗が確定した夢は、果たして夢と呼べるのか。大地が苦悩する中、アパートの上空に謎のドローンが出現し、星乃を監視し始める。再び暗躍を始める六星衛一、月見野市に降り注ぐ謎の隕石群、そして地球外生命体発見の情報――。『夢』と『宇宙』がテーマの感動巨編、超展開の第三弾!


人生に失敗し最愛の人も亡くした青年がタイムスリップしてやり直す、SFサスペンス第三弾。
このシリーズが『夢』の物語と言われているのが、どうしてもピンとこなかったのだけど、今回初めてそれを実感できた。
伊万里にしろ涼介にしろ、今までは捻じ曲げてしまった未来を軌道修正していただけだったのが、今回の宙海に対しては純粋に本人の夢を後押ししていたからだろう。親の抑圧で夢を潰され後悔の人生を送ろうとしている少女を、すんでで救い出す啖呵に、また転びそうになった時に差しのべる手。大地がこれまでで一番熱い男に映った。
でも、やっぱり興味をそそられるのはSFサスペンスの方なのだけど。しかも、今回はかなり本気出してきた感じだし。
あらすじの超展開の文句に相応しいまさかの犯人、まさかの展開(注・本編の黒幕ではなく今回の犯人
いわゆるヤンデレ化してしまった犯人のサイコスリラー的な恐怖に、視点を少し変えれば救済の物語が絶望の物語に変わる、この『やり直し』が根本的に持つ怖さ。そしてこの先、話が混沌とすることが確定した恐ろしさ。「怖い」が際立つ後半は目が離せない。
六星は当初から怪しかったけど、今回の犯人のような存在がいるなら、他にもタイムトラベラーが何人いてもおかしくないし、誰が敵であってもおかしくない。
星乃に大地の秘密が知られ、ベレー帽の少女も参戦してくるであろう次回がどういう展開を迎えるのか、楽しみでしょうがない。