いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「凜として弓を引く 初陣篇」碧野圭(講談社文庫)

凜として弓を引く 初陣篇 (講談社文庫)

発足したばかりの武蔵野西高校(通称ムサニ)弓道同好会は、女子三人男子三人で初めて試合に挑む。部長の矢口楓をはじめメンバーは調子の出ないまま試合を終える。悔しさをバネにそれぞれ課題をもって練習に臨み、次の試合へ。そして、ムサニ弓道の快進撃が始まる!?
青春“弓道”小説シリーズ!〈文庫書下ろし〉


いくつも大会に出たり昇段試験を受けたり、学校での部活本格始動なシリーズ第3弾。
主人公の楓が素直で真面目で控えめなタイプだからスポ根青春ものにはならないだろうと思っていたが、それにしても盛り上がらなかったなと。
大会の様子がここまで淡々とサラッと表現されるのは予想外。初段試験の時は本人の緊張感と場の張り詰めた空気が肌で感じられそうな臨場感があったので、初大会もそういう感じになるのかと。
学生の大会だとそこまで空気は張りつめていないのかな? 本人たちも予選を通るわけないと思っているというのもあるかもだけど。それとも場数を踏ませて最後の大会で活躍する為の下地を作りたかったのか。それにしても、弓道の大会ってそれなりあるんだね。
あと、部活が主体になっことで高校生らしく部内の恋愛関係もあったけど、案の定楓は傍観者。盛んに「アオハル」という単語を使って青春ものをアピールしてたけど、楓はそういうタイプじゃないような。
それでも、サッカーの弟と太極拳の母と体幹について話し合って自分に合った方法を模索したり、先生や弓道会の先輩のアドバイスを真摯に聞いて自分に取り入れていったり、楓の成長の物語としての側面はいつも通り面白く、共感できるところがいくつもあった。彼女の素直で真面目な長所を生かすには、同級生より大人の中で練習していた方がいいような気がする。
今回は微妙だった。
所作からなにからじっくり説明していた初期の頃と比べると弓道の描写が随分軽くなってしまっているのが残念なのと、主人公の性格とストーリーの方向性があっていないような気がしてならない。

「お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件9」佐伯さん(GA文庫)

お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件9 (GA文庫)

誕生日を迎えた周は、真昼のおかげでたくさんの変化が生まれたことを実感し、こそばゆくも幸せを噛みしめた。
真昼が生まれた日にもありったけの祝福を贈ろうと決意して、準備に奔走する日々を過ごす周。
そんな中、進路を考える時期に差し掛かった二人は、一緒に暮らす未来を思い描き、受験勉強を乗り越えようと約束するのだった。
そして待ち望んだ真昼の誕生日。特別な一日にするべく、周はとあるサプライズを用意して……。
可愛らしい隣人との、甘くじれったい恋の物語。


真昼の誕生日のために奔走する周が大忙しな第9巻。
リサーチに始まり多岐にわたる準備に協力要請、手作りにする為の練習あれこれ、そしてサプライズの準備。その忙しなくも一生懸命な頑張りに、真昼に対する深い愛情が見える。周君、本当にお疲れ様&GJ!
さて誕生日本番は……の前に、まずはその前の日常の方を。
まさかの砥石女子高生再びw しかも挿絵付き。後ろで束ねた髪とちらりと覗くうなじがお美しい。
それはともかく、大きめのイベントは三者面談。
というわけで登場の母・志保子。毎度恒例の愛のある口撃……おお! 見事に捌ききってるじゃないですか、周君。これが持っているものの余裕ってやつか。精神的に余裕が出来ているのが頼もしいような、ちょっと残念なような。
一方、親の話題が出ると心がざわつくのが真昼。ここで一旦真昼の心を少し閉じさせてテンションを下げておいて、誕生会で一気に喜びと幸せを爆発させる演出がにくい。
そして、ついに迎えた誕生日。
部屋を飾り付けしてケーキに蝋燭を立ててな至極ありふれた、でも小さな頃の真昼がどんなに憧れても出来なかった“お誕生会”。今まで体験してこれなかった普通の家庭にある幸せを、今からでも味あわせようという周の気遣いで心が温かい。その後の、あれもこれもなプレゼント攻撃は若干暴走気味で苦笑交じりだったけど。締めのサプライズにはまさかのあの人まで召喚するし。
意外とお茶目なタイプだった。まあ小学生に「胃袋を掴め」なんて吹き込む人が真面目なタイプな訳ないか。作者こういうタイプの女性好きね。
最高にハッピーで終始微笑ましく見守っていられる温かい誕生日だった。これは真昼が泣いちゃうのも仕方がない。改めて周くんGJ! しかし、今回でこの気合の入れようなのに毎年のアップデートを約束して大丈夫か? 来年からすっごく大変だぞw
同棲にあの人への御挨拶にと色々と“予約”が入って今後も楽しみ。そういえばバイト参観もまだだったね。

「豚のレバーは加熱しろ(n回目)」逆井卓馬(電撃文庫)

豚のレバーは加熱しろ(n回目) (電撃文庫)

“あれ”から一年が経とうとしていた。
「豚さんはすっかり、私がいないと生きていけない身体になってしまいましたね」
嬉しそうに言うジェスの手には頑丈な鎖が握られている。鎖の先にはブヒブヒと鳴く一匹の豚――もちろん、俺だ。
豚と美少女、二人の奇妙な共同生活がいま、舞台を変えて再び幕を開ける。
“あれ”から四年後のメステリアでは、かつての旅の仲間たちが奮闘を続ける。英雄は遂に結婚式を挙げようとしていた。イノシシはかつての飼い主と再会。龍族の青年は双子の子守りに明け暮れていた。
世界は刻々と変わっていくが、旅はずっと続いていく。これはそれをほんの少しだけ切り取った、おまけの一冊だ。


あれから一年後のジェスが来てしまった日本と、あれから四年後のメステリアの現状が語られるシリーズ完結編。
ジェスが日本に来てついにご対面……こっちでも豚になるんかい!
というわけで、一年後の日本では「最後の旅は豚の故郷で」という粋な計らい、エピローグらしい楽しい旅路だった。東京あり地方あり、豚による蘊蓄盛り沢山でまるでブラ〇モリの様……だと思っていたら、本人が言ってたわw というかこれ、旅というより観光デートなのでは?
ジェスが意外と日本文化に馴染んでいて、そこを含めて豚との旅を心底楽しんでいるのが分かるのがいい。時折ヤンデレの気配を出しつつも、やっぱりジェスは一途で素直で可愛いことが最後にして再認識できた。ジェスたそ~
四年後のメステリアの方は、まだまだ問題は山積みながら少しずつ良い方向に向かっているメステリア様子が、サブキャラ達の視点で語られる。
二人の旅で出会ってきた、助けてくれた仲間たちがそれぞれに自由と幸せを掴んでいる様子にどれもジーンとくる。中でも一番はセレス。ジェス以上に報われてこなかった彼女が幸せを掴めたことがとにかく嬉しい。
そしてラストは……。
幾多の試練と障害を乗り越えて、世界の壁まで破ってしまった一人の少女の一途な想いが通じた瞬間に感無量。暴走と邪魔で締まらない感じなるのもまた、この二人らしくて良し。
旅に始まり旅立ちで終わる、少女と豚が出会って旅をする物語の最後に相応しい納得の最終巻だった。忘れていた伏線も回収されていたしね。完結おめでとうございます。厳しくも楽しい旅路と、最高に可愛いヒロインをありがとうございました。

「アクセル・ワールド27 ―第四の加速―」川原礫(電撃文庫)

アクセル・ワールド27 -第四の加速- (電撃文庫)

「トライアル・ナンバーツーは、今日でサービス終了だ!」
《ブレイン・バースト2039》の戦場に突如現れた、新たな戦士《ドライブリンカー》たち。それは第四の加速世界《ドレッド・ドライブ2047》による、侵略の開始を告げる合図だった。
圧倒的な力でバーストリンカーたちを蹂躙していく、侵略者ドライブリンカーの尖兵・ユーロキオン。
「――クロウ! 私の翼を使いなさい!」
かつてない強敵との戦いの中、シルバー・クロウは新たな力を手に入れる!
BB世界の命運をかけた《世界間戦争》の行方は――?


ちょうど二年ぶりの新刊。(前巻をまるで覚えていなかったので軽く読み返してから読んだ)
テスカトリポカのショックから覚める間もなく、突如《ブレイン・バースト2039》の世界に乱入してきた《ドレッド・ドライブ2047》のプレイヤー10名。試行第2番=ブレイン・バーストを終わらせると宣言した彼らの正体と目的とは?な27巻。
ゲームの存続をかけた戦争の第一ラウンド。何がに何やらわからない内に巻き込まれた感じだが、かなり久しぶりに感じる1対1のPvP(このところ搦め手ありの集団戦や巨大エネミー戦ばかりだった気が)が熱かった。
どうやら心意システムが標準装備らしい8年後の後継ゲーム。しかも、あちらのゲームのレベル9のトッププレイヤーとまだレベル6のシルバー・クロウとのレベル差。侮られて相手は本気ではないと言っても、ビハインド要素盛り盛りの中で善戦するクロウの勇姿は文句なしに格好いい。そこにゲームの垣根を超えたコラボのお祭り作品としてワクワク感も加わって、盛り上がるバトルだった。
と、そこは良かったのだけど、、、それ以外がね。相変わらず進まないのよね。
戦闘後は現状を把握して終わりで、作中時間は約半日。前巻で想いが通じあった黒雪姫とは連絡事項のやり取りだけで絡みはほぼなし。黒雪姫とのその後を楽しみに読み始めたんだけどなあ。。。しかも、状況的には次回からはメタトロンがメインヒロインらしい立ち位置だし。それにつけても最上位ビーイング第二形態の巨乳率の高さよ。
次回からはその巨乳お姉さんたちを守る防衛線。クライマックス突入をうたっているが、それより次が何年後に出るのかが一番の問題のような。

巻末は劇場版来場者特典の書き下ろし。って、こっちも続くんかーい! どれだけ(続く)が好きなんだよ(^^;

「リコリス・リコイル Recovery days」アサウラ(電撃文庫)

リコリス・リコイル Recovery days (電撃文庫)

「それじゃ喫茶リコリコ、出撃だ!」
リコリス――花の名前にして、日本の平和を守るエージェントの少女たち、だけど昼の顔は、喫茶店の看板娘!
喫茶リコリコを舞台に、TVアニメシリーズ『リコリス・リコイル』では描かれなかった錦木千束や井ノ上たきなたちのちょっぴりスリリングな非日常の物語。
二人に舞い込む依頼と迫る上映時間!? 常連客のピンチに漫画のモデルだってこなしちゃう! さらに人知れず街の平和を守るフキとサクラの日常だって!
そして、熱に浮かされたたきなが目覚めるとそこは殺人鬼が潜む森のロッジ!?
やっぱり一筋縄では終わらない慌ただしくも賑やかな日常を原案者自らが書き下ろす、新ノベルシリーズ第2弾!


リコリコ小説版、短編集第二弾!
お仕事ありプライベートあり夢オチありで今回も“バラエティパック”な内容。
それぞれ単独の話ながら、ちょっとずつ繋がっているのが特徴。第一話の小道具は第二話で手に入れたものだったり、第三話の看病後風邪をうつされるというベタなオチが第四話第五話に繋がっていたりと、かなり短期間の日常を切り取った地続きの物語になっている。

のっけから濃厚で香り立つコーヒー描写。アサウラ節全開のスタートにニンマリ。でもまさか、袋井名物「たまごふわふわ」まで出てくるとはw
それはそうと今回はがっつり「千束とたきな」な話で、他のコンビの話も一つあるけれど他のキャラのファンにはちょっと物足りないかも。たきな推しの私には何も問題ない、むしろありがとうございますと言いたいのだけど。
仕事でも日常でも真面目一辺倒なたきなが千束に感化されているシーンが多く、かわいいたきな成分がいっぱい。自分の成長に活かそうと千束の日常から何からクソ真面目に観察しすぎていて、たきなの面倒くささとある種の重たさが出ているところもあるが、それもまた良し。
お気に入りは第三話『Cough』(Cough=咳)
たきなさんの口は厳しいけれど、行動(食べ物)は優しい完璧な看病。こんなん千束じゃなくても惚れますわ! いい塩梅の百合感が出ているのも良き。それに、千束ご所望の買い物ついでに一人で散歩して街の景色や営みを見て楽しむ、心の余裕があるたきなの様子に確かな成長が感じられて愛おしい。
期待通りに面白かった、楽しかった。アニメ第二期に向けて気分を高めてくれる最高の短編集。第二期が今から本当に楽しみだ。