いつも月夜に本と酒

ライトノベルの感想を中心に興味のあることを日々つらつらと書き連ねるブログです。



「日本酒BAR「四季」春夏冬中 さくら薫る折々の酒」つるみ犬丸(メディアワークス文庫)

日本酒BAR「四季」春夏冬中 さくら薫る折々の酒 (メディアワークス文庫)
日本酒BAR「四季」春夏冬中 さくら薫る折々の酒 (メディアワークス文庫)

恵比寿の繁華街の片隅にたたずむ「四季‐Shiki‐」。
日本酒専門のこの点で供されるのは、客の好みに合わせたお酒と自慢の料理。
仕事でへとへとの体には爽やかな爽酒でほっと一息、くたくたの心には薫り高い薫酒で心ゆくまでゆったりと。
あなたの疲れた心と体に、ぴったりのお酒がここにあります。酒と肴と思い出と、人生に寄り添うこの店に、どうぞ癒やされにいらっしゃい。
実在する日本酒が多数登場。読んだら飲みたくなる、日本酒レビューも収録。


実家の酒蔵を飛び出し、東京の日本酒BARに拾われた若い利酒師*1の物語。
バーという人が弱みを吐露しやすい環境と、店の二人の優しくて生真面目な性格が綺麗にマッチした王道ながらも沁みる人情話。これも一つのマリアージュ(作中によく出てくる言葉。飲み物と料理の組み合わせが良いこと・フランス語)ってことかも。
バーでの人情話と言えば人生の酸いも甘いも知った熟練のバーテンダーが愚痴る客を諭す話を想像するが、本作はそれとは一味違う。
主人公の冴蔵がまだ若くて人生経験が浅いので、一言で客を立ち直らせるような劇的な言葉はないが、その分説教臭くも押し付けがましくもなっていないのが良いところ。足りない分はその若さで、若者には寄り添って、年長者には子供のような立ち位置に踏み込んでと、距離の近さで補っている。
また彼が選らぶ日本酒はメジャー過ぎずマイナー過ぎずいい塩梅で酒飲みの好奇心を満たしてくれる。(多分。ビール・焼酎党の私の知識なので、日本酒党の人にはメジャーかもしれない)
但し、お酒がメインというのもあるのか料理の描写はあっさりで飯べ物小説としては物足りない。料理途中の描写があったり、食べた後は言葉の感想だけでなく食べた人の表情や仕草が入ってこないと食欲はそそられない。
それでも人間ドラマとしては十分に面白かった。続きはあるんだろうか。客の悩みを見聞きしながら主人公が自分の人生を省みる物語でもあったので、主人公の当面の問題は解決したから微妙なところ。それよりハイカラ工房の続きをですね……

*1:作中では利酒の利は口へんに利の字。環境依存文字なのでここでは使いません